2015年3月6日金曜日

天然ガス:黄金のシナリオ、約束されたガス黄金時代が到来しつつある

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2015.03.06(金)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43121

天然ガス:黄金のシナリオ
(英エコノミスト誌 2015年2月28日号)

約束されたガス黄金時代が到来しつつある
だが、生産者よりずっと先に消費者が利益を得ている


●西オーストラリア州沖合のシェルの浮体式海洋天然ガス液化プラント(写真:Shell)

 昔々、石油が高価でエネルギー源が乏しく見えた世界で、化石燃料輸入国のシンクタンクである国際エネルギー機関(IEA)が「ガスの黄金時代」の到来を告げる特別報告書をまとめた。
 それは2011年のことだった。

 報告書は、主に新興国と発電から生じる需要の急増によって、
★.ガスが2030年までに石炭に取って代わる可能性がある
と記していた。

■巨大プロジェクトが続々完成

 大手エネルギー企業はこの楽観論を共有していた。
 高い価格と東アジア――特に中国と日本――での需要の拡大に促され、エネルギー大手は一斉に、液化天然ガス(LNG)を生産するためにオーストラリアやパプアニューギニアなどで巨大プロジェクトに乗り出した。

 海洋掘削による生産もあった。
 また、オーストラリア・クイーンズランド州で英BGグループが手掛ける200億ドル規模のプロジェクトの場合は、炭層ガスからLNGを生産する事業だった。

 シェールブームのおかげでガスがあふれかえっている米国は、LNGの輸出を始められるよう、もともとLNG輸入のために建設された沿岸部のターミナルを改造し始めた。

 だが、予想外のことが起こった。
★.最も環境を汚染する化石燃料として嫌われていた石炭が、
 特に欧州で予想外の再興を遂げ、
 発電のエネルギー資源としてガスを追い抜いたのだ。

 これは部分的には国際市場における安い石炭の供給量が潤沢だったためであり、部分的には欧州連合(EU)の排出量取引制度の欠陥が著しく、意図されたように石炭が市場から締め出されなかったためだ(欧州議会は2月末、制度の改善に向けて動き出した)。

 このためLNGの需要は過去3年間、概ね横ばいで推移してきた。
 その結果が、最近の原油価格の弱さによって拍車がかかっている買い手市場だ。

■消費者にとっての黄金時代


● 天然ガスの価格は急落している(図1参照)。

 この2月、米ルイジアナ州の天然ガス巨大集積地ヘンリーハブで計測される米国スポット市場の価格は100万BTU(英国熱量単位)当たり2.75ドル前後と、2012年半ば以来の安値水準だった。

 LNGのスポット価格は、重要な日本市場で100万BTU当たり6.65ドルに落ち込んだ。
 これは5年ぶりの安値水準で、4年ぶりに欧州の価格を下回った。

 だから、これは確かに黄金時代だ。
 ただし、ガスの消費者にとっての黄金時代なのだ。

 液化工場などの大規模なガス生産設備に投資している企業は打撃を受けている。
★.石油価格と同様、
 ガス価格の落ち込みは弱い需要と急増する供給がもたらした結果だ
 (ただし、ガスの場合、破綻したカルテルという追加要素はない)。

 エネルギー価格が高かった時に始まったプロジェクトが次々と完成し、数百万トンの新規設備が操業を始めようとしている。

 世界の輸出能力は2013年末の290mtpa(mtpa=年間100万トン)から2018年の400mtpa近くまで3割強増加する見込みだ。
★.オーストラリアは2020年までに輸出能力を3倍の86mtpaに引き上げ、
 カタールを抜いて世界最大の輸出国になる。
★.米国は今年、LNGの輸出を開始する。

 西オーストラリア州沖合のガス田を開発する2つの巨大プロジェクトが来年、操業を始めることになっている。
 1つは、シェブロンが300億ドル投じた陸上設備ウィートストーン・プロジェクト。
 もう1つは、恐らく130億ドルの費用をかけ、巨大な船舶の上に設置されたシェルのプレリュードだ。

 パプアニューギニアでは、エクソンの190億ドル規模のプロジェクトが昨年5月、計画を前倒ししてガスの出荷を始めた。

■「不安発作」で新規プロジェクトが凍結

 ここへ来て、調査会社サンフォード・C・バーンスタインの報告書が「不安発作」と呼ぶ動きの中で、新規投資がぱたりと止まった。

 大規模な新規LNGプロジェクトは何カ月も発表されていない。
★.LNG事業は極めて資本集約的なため、国際貿易の4分の3を占める長期契約が絶対不可欠だ。
 こうした契約は、
★.ガス生産国にとっては軟調なスポット価格が産油国ほど大きな問題にならないことを意味している。

 だが、エネルギー企業にとっては、長期契約はもはや大型投資に必要な快適なクッションを与えてくれない。
 買い手は市況の低迷を利用し、有利に商談を進めている。

 例えば、日本は昨年、100万BTU当たり16ドル前後でガス契約に調印した。
 今では、契約価格が11ドル以下に低下すると予想されている。
 スポット価格が7ドルを下回っていることから、そうした予想は非現実的には思えない。
 液化と輸送の費用を考慮すると、米国の輸出業者は損失に見舞われる可能性がある。

 LNG業界の希望は需要の急増にかかっている。
 中南米は予想外に強い購買意欲を見せている。
 英国向けの販売も伸びている。
 かつて輸出国だったインドネシアは今、ガスを輸入している。

 だが、短期的な展望は暗い。
 経済成長は、中国で鈍化しており、日本では弱い。
 健全な経済国は軒並み、あらゆる種類のエネルギーを以前より効率的に利用している。

 他の燃料は力強く競争している。
 日本は今年、一部の原子力発電所の稼働を再開させる見通しで、一部の発電所で安価な石油を燃やすこともできる。
 中国はクリーンな石炭や再生可能エネルギーに加えて国内ガス生産を推し進めている。
 いずれも発電において輸入ガスに置き換わるものだ。

 欧州の需要家はLNGを、ロシアのガスプロムなどの供給会社に対する交渉の切り札として使えるが、欧州の需要は伸びるどころか減少している。

 これほど多くのエネルギー消費国が環境に優しい燃料を探しながら、まだ炭化水素を完全に捨てる用意ができていないため、ガスの長期展望は明るく思える。

■長期的には明るい展望

 輸送用燃料としてのガス需要は急拡大する見込みだ。
 フィアット・クライスラーのような一部自動車メーカーは、天然ガス車を売り込んでいる。
 天然ガス車は燃費が高く、ガソリン価格が高い時でさえ魅力がある。


●ホンダの天然ガス車「シビック・ナチュラルガス」〔AFPBB News〕
「グリーンカー・オブ・ザ・イヤー」にホンダ・シビック・ナチュラルガス

自動車業界は米国、欧州、日本、中国でどんどん厳格化される排出基準を満たすのに苦労しており、
 基準を満たす1つの方法は、天然ガス車の販売を増やすことなのだ。

 電動人力車など、圧縮天然ガス(CNG)で走る車の販売は、インドと中国で急増している。

 インド鉄道はCNGで走る列車に切り替え始めた。
 船舶用エンジンが使う重油からの汚染に対する懸念から、バルト海と米国沿岸水域では新たに厳しい排出規則が設けられた。
 これがLNGを動力とする船舶への切り替えを促している。

 ガスを動力とする船舶用エンジンを製造するフィンランド企業バルチラのティモ・コポネン氏は、目下最大の制約は燃料補給だと話している。
 だが、米国はルイジアナ州ポートフォーションに初のLNG補給設備を開設しようとしている。
 2月には、試験的な補給を行った。

 消費者に近い場所にある小規模設備での発電への切り替え(これにより輸送コストが削減できる)も、他の燃料を犠牲にしてガスの需要を増加させている。

 ニューヨーク州のエネルギー政策を統括するリチャード・カウフマン氏は、ガスを燃やす小規模な「熱電併給(CHP)」プラントはかつてないほど経済性が高まっていると指摘する。

 一部の企業やマンションは常時稼働する独自のガス発電機を設置し始めており、商用電源への依存を減らしている。


 現在の新規プロジェクト凍結は、今後数年内に需要の伸びが供給の伸びを上回り始める可能性があることを意味している(図2参照)。

 それ以降は、現在の過剰供給が減り、生産者が価格決定力を取り戻せるかもしれない。
 時間はかかるが、生産者も黄金の未来を謳歌できるはずだ。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。





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