2015年4月5日日曜日

14億人のトップ習近平の栄光と孤独::謀殺に脅える「異常な警戒心」、本当に信頼できる部下はたった二人だけ

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現代ビジネス 2015/4/5 11:01 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42658

14億人のトップ習近平の栄光と孤独 
謀殺に脅える「異常な警戒心」 
初めて明かされる素顔

 性格は孤独でネクラ。猜疑心が強く、権力闘争にひときわ敏感で、政敵は容赦なく粛清していく―。
 このほど終了した全国人民代表大会で、隣国の独裁者の無慈悲で不安げな「素顔」が見えてきた。

■自らの護衛責任者も更迭

 「両会」―中国では、国会にあたる全国人民代表大会(全人代)と、政府への唯一の諮問機関である中国人民政治協商会議(政協)を合わせて、こう呼ぶ。
 日本で言えば、衆議院と参議院に近い存在だ。

 「両会」は一年で3月前半しか開かれない。今
 年の全人代は3月5日から15日まで、政協は3日から13日まで、それぞれ北京の人民大会堂で開かれた。

 その「両会」の開幕直前、天安門広場の北西に広がる最高幹部の職住地「中南海」で、異変が起こった。
 中南海に住む最高幹部たちの護衛を担当する中国共産党中央弁公庁警衛局(中央警衛局)で、習近平主席の護衛責任者を務める曹清局長(人民解放軍中将・63歳)が突如、解任されたのだ。

 その理由について、「両会」代表の一人が明かす。

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 「曹清局長は、1976年に毛沢東夫人の江青ら『四人組』を電撃逮捕したことで名を馳せた人物です。
 その後、胡錦濤前主席に目をかけられて、 07年9月に胡錦濤主席を警護する中央警衛局長に抜擢されました。

 2年前に国家主席を引き継いだ習近平は、そんな曹清局長を信頼できなかった。
 習近平は昨年末に、『胡錦濤の分身』と言われた最側近の令計画・党統一戦線部長を引っ捕らえており、その件で胡錦濤は習近平に対して、はらわたが煮えくり返っている。
 そのため習近平は、胡錦濤が気心の知れた曹清を焚きつけて、自分に銃を向けてくるのではないかと、気が気でなかったのです。

 そこで、曹清よりは信頼できる王少軍副局長(少将・60歳)を局長に抜擢した。
 曹清は、北京軍区の副司令員に横滑りさせ、体よく中南海から追い出したというわけです」
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 全人代の代表でもある曹清中将は、3月5日に人民大会堂に現れた。
 だが、終始顔を曇らせ、記者の直撃取材にも無言だった。

 しかし、自分の警護団のトップをクビにしても、習近平主席の動揺は収まらなかった。
 米ノースカロライナ州に本部を置き、米政府からバックアップを受けている亡命中国人団体のサイト「博訊ネット」は3月4日、北京で起こったばかりという衝撃的なニュースをスッパ抜いた。

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 〈中央警衛局の一部が3日、クーデターを起こし、習近平政権の転覆を謀った。
 クーデターによって、習近平や王岐山(習近平側近で共産党序列6位)らを軟禁する計画だった。
 だがこの計画は、人民大会堂にいた習近平主席に、事前に伝わってしまった。
 そのため習主席は、直ちに北京軍区を出動させた。

 これによって、クーデターは未遂に終わった。
 怒り心頭の習近平主席は、300人以上の中央警衛局員たちを、厳重な取り調べの対象とした。

■毒見係を引き連れて

 こうした状況を受けて、今年の「両会」は、かつてないほどの厳戒態勢の中で行われた。前出の代表が証言する。

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 「顔の知れたわれわれ『両会』の代表たちでさえ、人民大会堂に入るために、3回もの厳しい身体検査を受けないといけなかった。
 習近平主席の周囲には、王少軍新局長ら数十人が常に張りついて、異様な警備態勢でした。

 習近平主席が各省の会議に参加する際には、直前に主席が座る椅子やテーブルを入念に検査し、主席に出されるお茶は毒見までしていました。
 習主席が人民大会堂の表玄関から外へ出てくる時は、待ち受けた数百人規模の警備員たちを退去させ、代わりに中央警衛局員たちに入れ替えていました」
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 万事のんきだった胡錦濤時代には考えられなかったものものしさだ。
 今回の「両会」で見えてきたのは、習近平主席が正真正銘の「皇帝」となってきたことだった。

 本来、全人代で主役を務めるのは、中央官庁の国務院を統轄する李克強首相のはずである。
 実際、習近平主席に次いで中国共産党の序列ナンバー2である李克強首相は、全人代の開幕日に1時間40分の政府活動報告を行い、15日の閉幕日には年に一度の記者会見に臨んだ。

 だが、李克強首相の存在感は薄かった。
 「両会」を取材したジャーナリストの李大音氏が語る。

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 「政府活動報告では、全人代の代表たちが大勢、居眠りしていました。
 記者会見では、『この人に聞いても権限がないので意味がない』と、記者たちがシラけきっていた。
 李首相もそんな雰囲気を察知して、『君たちももうお腹が空いたでしょう』と言って、早々に切り上げてしまいました」
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 李克強首相は、歴代首相の中で、「最弱の首相」になりつつある。
 それというのも習近平主席が、共産党のトップに立ってから2年4ヵ月、国家主席に就いてから2年で、すべての権限を自分に集中させるシステムを構築したからである。

 現在、習近平の肩書は、国家主席、共産党中央総書記、中央軍事委員会主席、国家安全委員会主席、中央全面深化改革指導小グループ長、中央インターネット安全情報化指導小グループ長、中央軍事委国防軍隊深化改革指導小グループ長、中央財経指導小グループ長……と、数多い。

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 「習近平が手本にしているのは、毛沢東とプーチンです。
 14億の国民を支配する完全独裁体制を敷くことを目標にしているのです。
 加えて、昨年11月の北京APECを成功させ、自らが主導して設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に英仏独が参加の意向を示したことで、『アジアの盟主』になる野望の実現も見えてきた」(同・李氏)
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 圧倒的権力を掌中にした習近平主席は「汚職幹部追放」の名の下に、日々政敵たちの粛清に邁進しているのである。

前出の「両会」代表が言う。

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 「中国には最近、『午後6時の男』という隠語があります。
 王岐山書記が率いる党中央紀律検査委員会のホームページで、午後6時頃に『本日失脚させた官僚』が発表されるからです。
 昨年だけで696人もの幹部が掲載されましたが、今年はさらに増加しています
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■みんなが恐れ、ひれ伏す

この代表によれば、いまや全国の富裕層の人々も、習近平に脅える日々だという。

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 「3月2日に米『フォーブス』誌が発表した中国長者番付トップの『不 動産王』王健林は、身の危険を感じて、習近平のたった二つの趣味であるサッカーとハリウッド映画に目をつけた。
 1月に昨季スペインリーグの覇者アトレチ コ・マドリードの株の2割を買ってオーナーになり、夏にスター選手たちを北京で習近平に引き合わせると約束。
 また青島に『中国版ハリウッド』を建設すると ブチ上げ、再来年のオープンに向けて工事を始めています。
 逆に習近平の嫌いなゴルフへは、誰も投資しなくなりました
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 3月5日、全人代の開幕式に参加し、李克強首相の政府活動報告を聞いた習近平主席は、午後になると、上海市代表団の分科会に加わった。
 31の地方が それぞれ別の部屋で分科会を開いたが、習近平主席は昨年、一昨年に続き、3年連続で迷わず、上海市の指導者たちが一堂に会する部屋に向かったのだった。

 前出の李大音氏が解説する。

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「習近平は2年前に国家主席に就いた時から、中国政界最大の黒幕、江沢民元主席と、その一派『上海閥』を打倒することに闘志を燃やしてきました。
 そのため、敵の〝本丸〟に乗り込んで、『江沢民の上海』から『習近平の上海』に塗り替えているのです」
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 この日の習近平主席は、上海市の幹部たちを前に演説をぶち、「刷新」という言葉を繰り返した。

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 「旧い時代(江沢民時代)の意識は捨て、すべてを刷新するのだ。
 刷新する者だけが勝者になると思え。
 上海は、刷新して発展する先行者となり、全国の刷新を助けるのだ!」
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 習近平主席の演説が終わると、その迫力に圧倒されたかのように、上海で「江沢民一家の御用聞き」というニックネームがついた楊雄市長が、必死にお追 従を述べた。
 続いて同じく「江沢民の犬」と言われた上海市トップの韓正・上海市党委書記が、汗をかきかき習近平主席の偉大さを称賛したのだった。

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 「この上海市最高幹部二人は、昨年の大晦日に、上海最大の観光名所バンド(外灘)で起こった将棋倒し事故(36人死亡)の責任を取らせる形で、クビになるはずでした。
 ところが習近平主席が『待った』をかけて、首の皮一枚で延命した。

 習主席は、この二人にもっと重大な汚職のレッテルを貼って監獄にブチ込もうと考えているのです。
 それは本人たちも薄々感じ取っているため、二人とも、いわば命がけで習主席への阿諛追従に及んだというわけです」(同・李氏)
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■あまりに寂しい

 習近平が顔を出したのは、上海市の会議ばかりではなかった。
 3月12日、習近平主席は、人民解放軍代表団の全体会議にやって来た。
 軍の最高幹部たちは、緊張の面持ちで習近平主席の演説を聞いた。

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 「これからは、軍人と人民を一体化していく。
 軍人と人民が強大なパワーを結集させ、中国の夢、強軍の夢を実現するのだ!」
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 再び李大音氏が語る。

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 「江沢民時代の軍における2大実力者が、徐才厚と郭伯雄の両元中央軍 事委員会副主席(上将)でした。
 習近平主席はまず、昨年3月に徐才厚を失脚させましたが、この会議の時、ついに監獄で殺害したという噂が流れたのです(国 営新華社通信は15日に、多臓器不全で死去と発表)。

 もう一方の郭伯雄に関しては、3月2日、まずは息子の郭正鋼・浙江省 軍区副政治委員(少将・45歳)を、『重大な犯罪容疑』で失脚させました。
 遠からず郭伯雄本人も、監獄にブチ込むのは必至です。
 他にも江沢民派の軍幹部た ちを一網打尽にしつつあり、『習近平の軍隊』建設に邁進しているのです」
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 だが、どれだけ政敵を粛清しても習近平が満たされることはないだろう。
 李氏が続ける。

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 「習近平が信頼できるのは、青年時代から親しかった
★.王岐山常務委員と
★.栗戦書・党中央弁公庁主任(官房長官に相当)、
★.それに妻で元国民的歌手の彭麗媛
くらい。
 これほど孤独な独裁者はいません」
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 習近平と王岐山は共に、青年時代に同じ陝西省の貧困地区に行かされた際に知り合った。
 王岐山がそこで知り合った姚依林副首相の娘と結婚したことから、同じく副首相の息子だった習近平と、北京へ戻ってからも親交を深めた。

 栗戦書は、習近平が30代前半の時に河北省で務めた際に知り合い、意気投合した。
 以後、自分の政治生命を習近平に賭けた唯一の政治家となった。

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 「いま習近平の周囲にいる他の面々は、権力の前にひれ伏しているだけです。
 だからいつ部下に寝首を掻かれるかしれないため、習近平は粛清を強める。
 すると部下たちはますます離れていくという悪循環です」(李氏)
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 14億の民を率いているのに、本当に信頼できる部下は、たった二人だけ。
 謀殺に異常なまでの警戒心を持つ独裁者・習近平の内面は、あの大国以上に不安定なのである。

「週刊現代」2015年4月4日号より



レコードチャイナ 配信日時:2015年4月5日(日) 19時10分
http://www.recordchina.co.jp/a105578.html

周永康の“国家機密漏洩”疑惑とはなにか?
習近平一族の蓄財情報を海外メディアにリークか―米華字紙

  2015年4月3日、米華字紙・世界日報は記事
 「周永康の機密漏えい=習近平・温家宝一族の資産情報のリークか」
を掲載した。

 中国共産党は3日、元党中央政治局常務委員の周永康(ジョウ・ヨンカン)の起訴を発表した。
 容疑は収賄、職権乱用、そして国家機密漏えいの3つ。
 果たしてどのような国家機密を漏えいしたのか、注目を集めている。

 米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカの専門家は、
★.習近平(シー・ジンピン)総書記一族、温家宝(ウェン・ジアバオ)前首相一族の資産情報のリークだと推測
している。

★.ブルームバーグは2012年、習近平総書記の姉一家が3億7600万ドルもの資産を保有していると報道。
★.その後、ニューヨーク・タイムズが温家宝一族が27億ドル、
★.戴相龍(ダイ・シアンロン)元中国銀行総裁一族が31億ドルの資産をそれぞれ保有していると報道した。

 14年1月には国際調査記者同盟(ICIJ)が報告書「中国オフショア金融報告解明」を発表、
 100人を超える中国共産党高官のオフショア資産について明らかにした。
 これらの報道は周永康一派のリークに基づくものだった可能性があるという。



サーチナニュース 2015-04-18 20:11
http://news.searchina.net/id/1570261?page=1

中国共産党高級幹部、3月末に暗殺未遂か
・・・腐敗撲滅を陣頭指揮の中国・王岐山氏、過去12回との説も=香港メディア


●(写真はCNSPHOTO提供。王岐山書記)

 香港誌・動向4月号などは、中国共産党中央政治局常務委員で、党中央紀律検査委員会(中紀委)トップの書記として、習近平総書記(国家主席)が進める腐敗撲滅運動の陣頭に立つ王岐山氏に対する暗殺未遂が3月末にあったと報じた。
 暗殺や暗殺未遂事件は40回以上あり、うち王氏を狙った事件は少なくとも12回あったと主張した。
 中国当局や大陸メディアは同件に触れておらず、真相は不明。

 習近平総書記は2013年秋の就任以来、腐敗撲滅に力を入れているが、記事によると中紀委スタッフに対する
「暴力的攻撃」が続いており、現在までに暗殺や暗殺未遂事件は40回以上発生した。
 うち12回は、王書記を狙ったものだったいう。

 王書記は3月27日から28日にかけて、河南省鄭州市にある共産党同省委員会の実情調査を行った。
 委員会に調査実施を伝えたのは27日早朝で、日程の詳細は伝えなかった。
 中国人民解放軍の総参謀部情報部が用意した専用機で鄭州市に向い、鄭州市に近い軍用飛行場に降りたという。

 27日の通達では、鄭州滞在を27日から29日としたが、到着後に27-28日の滞在と変更した。
 省の共産党幹部との会議の場も、鄭州市から同開封市内の施設に変更。
 視察先もすべて変更するなど、
 暗殺を回避するために周到な「手はず」が整えられていた
という。

 暗殺未遂が発生したのは28日早朝だったという。
 王書記が「宿泊施設」だった共産党が保有する招待所で午前4時ごろ、全館が停電した。4時20分には予備の発電機が稼働したが、午前5時には再び停電した。
 その後、王書記一行が利用していた3台の自動車がすべて、専用駐車場で爆発した。

 王書記一行は、市警察に所属する別の施設に宿泊しており、無事だったという。
 記事は、別の宿泊施設を利用したのも暗殺防止の「空城の計」だったと表現した。

 王書記については、2014年3月に天津市で実地調査を行った際、調査団が利用していた3台の車のうち1台が突然炎上した。
 炎上した車には警備員や調査団の一部メンバーが乗っていたが、王書記は別の車に乗っていたという。

 さらに、王書記には2014年、劇毒物質の青酸カリウム入りの年賀状が送付されたとの報道もある。

 王書記については、腐敗撲滅で身柄拘束を狙う「渡米した某大物」の引き渡しを求めるために、7月ごろに米国を訪問するとの見方もある。

 香港での報道にはしばしば出現するパターンだが、「王岐山暗殺未遂」の記事については
 「共産党内部からの情報」、
 「共産党内部文章によると」
といった情報が多く、真偽を判断しにくい面が多い。

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◆解説◆
 王岐山書記は1948年生まれ。当初は歴史学の研究者だったが、1982年に共産党書記処農村政策研究所に配属され、農村問題の専門家として注目されるようになった。
 80年代末からは中国人民建設銀行副頭取に就任するなどで、金融畑を歩むことになった。
 1997年に発生したアジア金融危機にともない、香港、次いで広東省が深刻な危機に見舞われた。

 王岐山書記は広東省に赴任し、香港の金融市場に悪影響を与えない形で、広東省を危機的状況から立て直したことが高く評価させた。
 2003年に、北京市の孟学農市長がSARSを隠蔽して解任された際には、北京市長代理に、次いで正規の市長に就任。
 事態の鎮静化に成功した。

 2008-13年の第2次温家宝内閣では副首相に就任。
 リーマンショックなどによる世界金融危機に対しては、4兆元の景気刺激策を断行して、中国経済に対する打撃を最小限で食い止めたと評価された。

 習近平政権の発足とともに、実績を積み重ねていた金融分野から腐敗撲滅という“畑違い”の分野に配属されたことについては、王書記が、習総書記とは異なる派閥の胡錦濤・温家宝ラインに近かったことから、「やっかい払いではないか」との見方が出た。

 摘発された「腐敗幹部」は当初、胡・温ラインにつながる人物が多かったので、王書記については「鞍替えをしたか」との見方も出た。
 しかしその後は、共産党中央政治局の周永康前常務委員を摘発するなど、胡・温ラインと対立する「江沢民派」の摘発も増えた。
 そのため、江沢民元国家主席は王書記に対して怒っており、「大声で怒鳴り合い、周囲がなだめたこともあった」との説も出ている。

 王書記の腐敗撲滅への取り組みは
 「閻魔大王と王岐山と、どちらが恐いか?」
とも言われるようになった。
 金融、経済、社会的混乱の立て直し、さらに北京五輪の招聘成功などの大きな実績を持っていることから「現政権内でもとりわけ有能な政治家」との評価がある。



ロイター 2015年 04月 21日 17:35 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0NC0QC20150421

コラム:中国の習近平氏「独裁」阻む3つの壁
by William Johnson

[20日 ロイター] -
 西側の中国ウォッチャーは当初、習近平国家主席は自身の権力基盤を固めるためだけに強固な共産主義者のふりをしている一種の「隠れリベラル」であり、中国を自由民主主義に導く可能性がある指導者だという望みを持っていた。

 しかし、そうした希望的観測を捨て去る代わりに、最近では権力を拡大させつつある独裁的指導者との見方を強めている。
 実際に過去2年間では、西側メディアは習主席を「権威主義者」もしくは「新独裁主義者」と描写している。
 ニューヨーカー誌は「毛沢東以来で最も独裁的な中国の指導者」と表現。
 ニューズウィーク誌の寄稿者も「習氏は中国を民主主義から引き離している」と記述した。

 しかし、こうした見方は間違っている。

 中国社会では現在、急速な都市化や石炭火力発電所の閉鎖、預金口座の保護など大きな変化が進行中だが、
 それらは習氏の強引なトップダウンによって起きているわけではない。
 習氏は、多くの西側ウォッチャーが描写するような独裁主義者ではないばかりか、
  実際には、権力基盤を揺さぶり続ける一連の課題に直面しているのだ。

■習氏が独裁的指導者になり得ないのには、3つの理由がある。

第1に中国経済の構造的欠陥が足かせとなっている。
 中国の競争力を維持するためにはまず、
★.急速な高齢化や
★.出稼ぎ労働者の社会保障、
★.深刻な環境汚染
といった問題に取り組まなくてはならない。
 農村部から都市部に出てくる労働者は、出稼ぎ先では教育や社会保障を受けられないという問題があったが、それを解消するために習氏は戸籍登録制度を改革した。
 また、労働力を再活性化させるために「一人っ子政策」の緩和を決め、公害低減でも特に北京では大胆な措置を講じた。
 しかし、中国経済を支えるにはまださまざまな問題が残っており、引き続き迅速な対応が求められている。

第2に、習氏の政治的地位は、見掛けほど強力ではない。
 確かに習氏は2012年に共産党最高指導者の地位に就いてから多くの要職を手にし、華国鋒氏以来で初めて、共産党と国務院と中央軍事委員会を同時に率いる立場となった。
 共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会でも権力基盤を固め、
★.同委員会7人の出身派閥を見ると、「共青団」の李克強首相を除く6人が、習氏と同じ「太子党」に
属している。
 一見、習氏は何でも望み通りに動かせる立場にいるように見える。
 しかし、実際にはそうではない。
★.政治局常務委員会の太子党メンバーのうち3人は、いまだに大きな影響力を持つ江沢民元国家主席の息がかかった人物だ。
 江氏と習氏は同じ太子党に属しているとはいえ、利益が必ずしも一致するわけではない。
 例えば、江氏の側近だった周永康・前政治局常務委員の汚職をめぐる捜査では、習氏よりも江氏が幅をきかせた。
 周氏の逮捕は、江氏が同意を与えない限り捜査当局も踏み切れなかったという。

 さらに言えば、政治局常務委員会の新たなメンバー構成は、派閥に何の関係もない可能性がある。
 新しい5人は年齢制限に合致するから選ばれただけかもしれない。
 年功序列と定年制度により、これら5人が政権トップの座に就くことはないだろう。
 5人は習政権2期目に定年退職を迎えるが、その時に常務委員の派閥バランスは変わる可能性がある。
★.中央政治局の多数派は今も共青団だからだ。
 内紛が起きれば習氏の影響力に影響するはずだ。

 共産党指導部内での権謀術数に加え、習氏は地方や省レベルの幹部の意欲を保つことにも苦労している。
 習氏が推進する汚職撲滅は、党内既得権益層の特権を奪うことになるため、これは一際難しい仕事だ。
 筆者は実際、それがどれほど困難な作業になるか、自分の目でも見てきた。

 筆者は最近、遼寧省で共産党の中級幹部を務める大連の友人を訪ねた。
 迎えに来てくれた友人の車は、幹部の象徴だった黒の最新アウディではなく、国産の第一汽車のセダンだった。
 豪華に歓迎できないことを何度も謝罪され、われわれは質素な夕食をともにした。
 食事代の請求書を最初に手に取ったのは筆者の方だった。
 話題の中心は友人の転職先探しについてだった。
 友人は民間の、できれば外資系企業を望んでいた。
 特権がなくなれば、党の仕事で家族を養っていけるか心配なのだという。
 こうした感情は共産党内で広がっており、習氏は省やそれ以下の地方レベルで生産性とコントロールを失うリスクがある。

 汚職はビジネス界にも広がっている。
 習氏は、国有企業に対するトップダウン型の管理を不快に思う省政府と戦わなくてはならなかった。
 国有企業の監督は一筋縄ではいかない。
 なぜなら、国有企業は党中央のみならず、省政府や市政府、特別行政区委員会によって所有されていることもあり、非効率と汚職の温床となっているからだ。
 幽霊社員も多く、省所有企業は国が所有する企業と取り組みが重複し、市場シェアを奪い合っていることもある。

 中国の社会構造や経済構造のシステム的な欠陥を考慮すれば、
 習氏が国家を動かしているのと同じぐらい、習氏が社会に動かされている
ことは明らかだ。
 もし習氏が党のルールと社会の安定を保ちたいなら、これらの問題すべてに対処しなくてはならない。
 習氏の前任者は、こうした問題の大部分を先送りにした。
 習氏にその選択肢はないのだ。

*筆者は、元米空軍将校で外交にも携わっていた。米空軍士官学校では哲学教授を5年間務め、2009─2011年には米太平洋特殊作戦軍(SOCPAC)の上級政務官だった。軍を退役後は、米海軍大学院で中国政策に関する助言も行っている。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



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