2015年4月20日月曜日

「中国の夢」で世界秩序の転換あるか:ヨコの秩序は均等な機会をもたらすが、過酷な競争になる

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ロイター 2015年 04月 17日 17:41 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0N80NN20150417

コラム:「中国の夢」で世界秩序の転換あるか
John Lloyd

[16日 ロイター] -
 今週発表された中国の第1・四半期の国内総生産(GDP)伸び率は、前年同期比で7.0%と、6年ぶりの低成長となった。
 これは、世界第2位の経済大国に期待されている数字としてはいささか物足りない。
 同国の輸出はさらに急減速している。
 その理由として、
★.1つには景気が停滞する欧州への輸出が減っていることがある。
★.また、中国の国内消費が増加していることも要因の1つだろう。
 今では個人消費がGDPに占める割合は輸出より大きくなっている。

 これは中国が進める計画の一環だと言える。
 先月に北京で開催された中国発展ハイレベルフォーラムに出席した張高麗副首相は、かつての成長モデルは
 「資本投入やエネルギー消費が大きく、外需に過度に依存しており、もはや持続不可能だ」
と語った。
 同副首相は中国共産党の中央政治局常務委員であり、同国指導部の立場から発言している。

 過去30年にわたって中国が目覚ましい発展を遂げた主な理由は、共産党支配を維持しつつ、独自の資本主義化を進めたことだ。
★.習近平国家主席の権力が、故毛沢東主席後の他の指導者の誰よりも強いことは、同党の強大さを示す証左と言える。

 だが、今後生じ得る不動産バブルや債務過剰といった経済問題に対し、
★.中国が過去の悪しき資本主義的なスランプに陥ることなしに対処できるのか、習主席を含め誰1人として分かる人はいない。
 習氏に分かっているのは、これは同氏による支配の特徴となりつつあるのだが、中国は同氏なりのやり方で対処していくということだ。
 つまりそれは、西側のやり方ではないことを意味する。

 習主席は新たな段階、人民が信じるべきだと同主席が考える「中国の夢」を推し進めている。
 それは中華民族の偉大な復興を実現することであり、
1. 中国独自の社会主義、
2. 現在の政治システム、
3. 中国が従っている道
という3つに対する「信頼」に基づいている。
 だが、これらはすべて言い方こそ違うが、中国共産党を意味するように思える。

 中国は驚くべき成長を遂げており、習主席は自信を持って中国の夢をうたうことができる。
 同主席を支持する評論家(つまり、ほぼ全員だが)は、ニューヨーク・タイムズ紙でコラムニストを務めるトーマス・フリードマン氏の2008年のコラムをこよなく引用したがる。
 同コラムの中でフリードマン氏は、
 「中国の裕福な地域、北京や上海や大連の現代的な一面は今や、米国よりも最先端をいっている。
 建物は建築学的により興味深く、ワイヤレス通信網も進んでおり、交通も効率的だ。
 彼らはこうしたすべてを石油を発掘して得たのではない。
 自分たちの内面から掘り起こしたのだ」
と述べている。

 中国の近代化のスケールとスピードは、西側に畏敬の念を抱かせ、恐れさせているだけではない。
★.西側の民主主義が行き詰まり、ほぼあらゆるところで無関心や敵対心を向けられる中、
 中国の権威主義がそれに代わるようになる
という考えが頭をもたげている。

 中国が抱く新たな自信については、評論家のエリック・X・リー氏が最も如実に表現している。
 2012年の習氏の共産党総書記就任について、
 「いつの日か、民主主義が正当で効果的な唯一の政治的ガバナンスの形態だという考えが終わりを迎えた日としてみなされるかもしれない。
 中国の政治モデルが、民主主義に取って代わられることはあり得ない。
 なぜなら、
★.民主主義と違って中国の政治モデルは普遍的なふりはせず、輸出されることも不可能だからだ。
 だが、
★.その成功が確かに示しているのは、
 政治的ガバナンスの形態の多くは、
 その国の文化と歴史に調和するならば、うまく機能する
ということだ」
と同氏は述べている。

 一方、西側の考え方では、政権の選択や個人の自由、法の支配や強い市民社会などは、ひどい貧困から抜け出して視野が広がれば、すべての人が望む普遍的価値だとみなされている。
 故に、民主主義は単に西側だけでなく、人類共通の価値だというのだ。

 中国は現在、世界で最も強力な国々から長い間支持されてきたこのような見方の試験台となっている。
 中国の著名な識者である張維為氏が言うように、
 「世界は今、西側が富と思想の両方で頂点に立っているタテの世界秩序から、
 特に中国に代表される国々が
 西側と肩を並べるヨコの秩序へと移行する変化の波
を目の当たりにしている」
のだ。

 ヨコの秩序は、より均等な機会を意味する。
 そこでの競争は西側の予想通り、過酷なものとなるだろう。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



2015.4.17(金) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43549

すべてのシルクロードが行き着く先
習近平国家主席が抱く夢、チャイナ・アズ・ナンバーワン?
(英エコノミスト誌 2015年4月11日号)

ぼんやりしたスローガンの霧を通して中国のアジア構想の輪郭が見えてくる。

 中国の習近平国家主席は、自身が率いる中国共産党を浄化することと自国を改革することに飽き足らず、アジアの経済的、政治的秩序も作り直したいと思っている。

 中国の指導者たちが共有する、簡潔だが、どこか不可解な表現を生み出す天賦の才能によって、習氏の大陸構想は「一帯一路」という公式用語に要約されている。

 習氏の説明によれば――直近では、先月、ダボスのスキー場を真似た中国の熱帯ビーチ版「ボアオ・フォーラム」で説明した――、この一帯一路構想は「地域的、世界的な協調を求める我々の時代の要求に応える」ものだ。

 誰もが納得しているわけではない。
 これをただの空虚なスローガンと見る人もいれば、アジアの支配的大国として米国に取って代わろうとする見え透いた策略と見る人もいる。

 どちらの批判も的外れのように思える。
 習氏はこの構想に真剣に取り組んでいる。
 そして、これは「策略」というより公のマニフェストだ。

■「一帯一路」の本気度

 習氏は2013年、カザフスタンで初めてこの構想を口にした。
 その際、何世紀も前に絹商人などが、中国から中央アジア、ロシアを通って北部欧州やアドリア海のベニスへ、そしてこれらの地域から中国へ商品を運ぶために使った陸路のネットワークだったものの主要部分に沿って、整備されたインフラの「シルクロード経済ベルト」構築を提案した。

 インドネシアでは、「21世紀の海のシルクロード」を提案した。
 こちらは、中国南東部沿岸の都市からベトナム、インドネシア自身、インド、スリランカ、東アフリカ、スエズ運河を通って海路で欧州に至る輸送回廊だ。

 これらの提案は当時、フワフワしたもののように聞こえた。
 外国訪問中の指導者が、友好的だったとされる遠い昔の交易を回顧しながら、よく持ち出す類のものだ。

 だが、過去数カ月間、この構想は大きな後押しを受けている。
 中国は、口で言うだけでなく行動で証明する方向に向かってさらに進んだ。

 中国は新たなアジアインフラ投資銀行(AIIB)に500億ドルの出資を約束。
 AIIBは米国の反対にもかかわらず、47カ国が創設メンバーの出資者として参加を申請したレースに火をつけた。

 中国は、陸路、海路沿いのインフラに投資する「シルクロード基金」のために、さらに400億ドルの資金を確保している。

 このような巨額の投資の1つの動機は、自国の国益だ。
 中国企業は新たな「接続性」で必要になる土木プロジェクト――道路、鉄道、港、パイプライン――の多くを勝ち取りたいと思っている。
 輸送網が改善すれば、中国の輸出業者も恩恵を受ける。
 そして、近隣諸国の発展を助けることで新たな市場が生まれる。

■中国版マーシャルプランの声

 中国がこれを理解したように見えることから、シルクロード計画は第2次世界大戦後に欧州の復興を助けるために米国が行った援助計画マーシャルプランと比較されるようになった。

 中国はこの比較が好きではない。
 マーシャルプランを米国のソ連封じ込めの一環と見なしているためだ。
 中国は、自国の取り組みは人類全体のためであり、「ウィンウィン」――お気に入りのキャッチフレーズ――だと主張する。
 だが、同国は明らかに、お金と投資が友人を買えることを期待している。

 中国の著名な国際関係専門家、閻学通氏は、
★.中国は近隣諸国との友好関係を「購入する」必要がある
と主張している。

 原油安やロシアへの出稼ぎ労働者からの仕送り減少に苦しめられている中央アジアでは、中国の関与拡大の見通しは歓迎されている。
 ロシア自身は、この地域の旧ソ連諸国における自国の影響力が中国によって徐々に浸食されることを警戒ながらも、今は中国の善意に過度に依存しているため、応援することしかできない。

■海のシルクロードには疑念も

 だが、海上ルートでは、中国の意図に対する疑念が広がっている。

 中国が係争中の岩礁を係争中の島に変えるために建設ラッシュに従事している
★.南シナ海での尊大な振る舞いは、
 中国が自国より小さな隣国を簡単にいじめられると思っている
との印象を与えている。

 そのため、東南アジアでは、一帯一路構想に対する当初の反応は懐疑的だった。
 マレーシアでは通常、中国からの提案に対しては、政府はまず称賛し、後で質問するが、今回、ヒシャムディン・フセイン防衛相は、海上シルクロードは「疑問を提起」しており、それは中国単独の取り組みではなく、共同の(つまり地域的な)取り組みとして理解されなければならないと述べた。

 自国を「海洋の世界的支柱」に変えたいと話すインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、最初は疑いを抱いていた。
 だが、今は支援する方向に傾いているように見える。
 ウィドド氏自身の計画が港湾その他のインフラへの巨額の投資を想定し、インフラ投資への中国の貢献を期待していることを考えれば、それも意外ではない。

 先月の中国訪問では、インドネシアと中国の「海洋パートナーシップ」を約束し、ジョコ氏と習氏の構想を「補完的」と表現する共同声明が出された。
 だが、ジョコ氏は北京に到着する前、インドネシアは、東南アジアの海域における中国の領有権の主張を受け入れていないことも明確にした。

 インドでは、やはり新しい指導者であるナレンドラ・モディ首相がこれらの問題に独自のアプローチを取っている。
 モディ氏は先月、スリランカ、モーリシャス、セイシェルを訪問し、これらインド洋3カ国に対して協力拡大を約束するとともに、海洋国家としてのインド自身の利益を詳しく説明した。

 これは、中国の計画に対する反撃として提示されたものではなかった。
 だが、1月には、モディ氏とバラク・オバマ米大統領が共同「戦略的ビジョン」を打ち出した。
★.中国の海上の野心に対するインドの暗黙の反応は、
 小さな隣国との関係を再強化し、米国との距離を縮めること
ったわけだ。

■チャイナ・アズ・ナンバーワン?

 来月中国を訪問するモディ氏は、海上シルクロードに批判的になる可能性は低い。
 ジョコ氏と同様、モディ氏はインフラに対する中国の投資を歓迎するだろう。

 だが、恐らく両首脳とも、アジアの将来に対する習氏のビジョンについては疑いを抱いている。
 習氏の描くアジアとは、中国がその中心となり、中国主導の機関がアジア諸国でこれまで以上に大きな役割を演じ、急成長する中国海軍が自国の海岸から遠く離れたところでこれまで以上に目に見える形で部隊を展開する地域だ。

 習氏は、地域覇権の夢、すなわち、韓国や日本といった国々が自らの意志で米国の戦略的軌道から離れ、中国――復活を遂げ、歴史的な生得権と見なしているものを取り戻しつつある大国――の軌道に入るという夢に導かれているように見える。

 これは策略などではない。
 それは他のアジア諸国を鼓舞する役にはほとんど立たないとはいえ、長期的な――そして確かとさえ言える――計画だ。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。








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