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2015.4.2(木) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43400
朝鮮統一の悪夢
:凍結された紛争が解けたら大洪水
(2015年4月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
新たな冷戦が盛んに語られる中で、世界には冷戦が一度も終わっていない場所があることは忘れられがちだ。
筆者は2週間ほど前、そんな場所の1つを訪れた。
南北朝鮮を分断する非武装地帯の南側では、観光客が望遠鏡を使って北朝鮮をのぞき込む。
反対側では朝鮮民主主義人民共和国と称する国の巨大な旗が風にはためいている。
1989年の欧州の冷戦終結は、朝鮮統一がすぐ後に続くとの期待を生んだ。
25年経った今、その希望は疲れ果てた疑念に道を譲った。
再統一が間近に迫っていると考える人はほとんどおらず、
当局者らは若い韓国人が再統一という考えに興味を失っていることを心配している。
韓国と北朝鮮の1人当たり所得の差は、今や40対1に達している可能性がある。
これに対し、再統一時点の西ドイツと東ドイツの差は3対1程度だった。
文化的な違いは所得以上に大きいかもしれない。
言語さえもが乖離し、韓国人と北朝鮮人は時に互いを理解するのに苦しむことがある。
■すべての関係国が警戒する統一プロセス
多少の熱意をかき立てようと、朴槿恵(パク・クネ)大統領率いる韓国政権は「再統一大当たり」について語り、北との統合は若くて安い労働力の集団を韓国経済に加えることで韓国に経済的な刺激を与える可能性があると訴えた。
中国と中央アジアを通り、欧州に至る陸路が生まれる展望も潜在的な恩恵として謳われた。
だが、多くの韓国人は、恐らくドイツで起きたことを意識してか、
統一プロセス全体がとてつもなく高くつき、破壊的なものになる
と感じている。
有力な地域大国――中国、米国、日本――にも警戒する理由がある。
朝鮮半島はかつて日本に占領されたことがあり、根深い敵意が残っている。
再統一は韓国の1.5倍の規模を持つ7500万人国家を生み、日本と真に同格の国になるかもしれない。
中国は北朝鮮に大いに憤慨している。
習近平国家主席は当てつけのようにソウルを訪問したが、まだ北朝鮮の平壌は訪れていない。
それでも今日でさえ、一部の中国人は北朝鮮のことを米国の影響力に対する潜在的に有益なバッファーと見なしている。
もし南北朝鮮が統一し、米国が軍事基地を維持すれば、米国は中国の国境のすぐそばに軍のプレゼンスを持つことになるからだ。
中国人の間には、統一された朝鮮半島は経済、外交、文化の面で中国圏に入ってくると主張する向きもある。
北京に本拠を置くある著名な学者は筆者に、米軍は5年以内に半島から去ると語った。
だが、米国により批判的な傾向がある韓国左派の野党でさえ、これには同意しない。
韓国の野党党首、文在寅(ムン・ジェイン)氏は、米軍が統一後何年も国内にとどまると見ている。
統一された朝鮮は米軍基地の必要性を理解しないとの不安は、アジアに対する米国の思考の1つの要素だ。
★.米国のアジア観は次第に、台頭する中国が突き付ける潜在的な脅威に焦点を当てるようになっている。
★.韓国の対中貿易はすでに対米貿易の2倍に上っている。
統一後の朝鮮が中国の勢力圏に入る可能性は十分に現実的だ。
地域のすべての人は、再統一が実現し得るプロセスを警戒する理由を持っている。
核武装した北朝鮮の無秩序な崩壊が悪夢の本質だ。
北朝鮮がミサイル技術で進歩を遂げている核兵器保有国であることを疑う人は誰もいない。
■ベルリンの壁崩壊の教訓
だが、まだ核兵器を造るには至っていないイランが熱心な国際外交のテーマになっているのに対し、北朝鮮の脅威への対処には、はるかに少ない精力しか注がれていない。
朝鮮半島はあまりに長い間分断されていたため、多くの人は早期解決の見込みはほとんどないと考えている。
彼らは恐らく正しいのだろう。
だが、ベルリンの壁崩壊が示したように、
★.凍結された紛争は唐突かつ予期せぬ形で解ける可能性がある。
南北朝鮮の統一は、もし起きたら、世界を揺るがすことになる。
By Gideon Rachman
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