2015年1月10日土曜日

2015年の中国(3):もっとも深刻なのは中国内陸部、新シルクロード計画が健全な発展を望むのは困難

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●急膨張 今年も中国が東アジア情勢のカギを握る Anventtr-iStockphoto



ニューズウイーク 2015年1月8日(木)16時59分 河東哲夫(元外交官、外交アナリスト)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/01/70-2_1.php

戦後70年を利用する中国の東アジア分断戦略
アメリカ主体の軍事・経済的安定に対抗し、荒波を立てる中国の国力をどう評価すべきか

★.今年の東アジア情勢で、日中関係は最大の動因の1つだろう。
 中国がGDPで日本を抜いてはや5年。
 急激な円安で、ドル換算で日本の倍になる勢いだ。

 とはいえ、日本経済の存在感は揺るいでいない。
 世界2位のODA(政府開発援助)供与額を維持し、直接投資は途上国にもろ手を挙げて歓迎されている。

 日中関係を見る際には2国間の経済分野だけでなく、地政学的に本質を捉える視点が欠かせない。
 日中のバランスを取り持ってきたのは、実質的に最大の「アジアの国」であるアメリカだ。
 08年のリーマン危機でその地位が沈むまで、東アジアは安定していた。
 政治方面で余計な荒波を立てずに、「現状維持」と「自由貿易」の2大原則に徹することができたのは、アメリカの経済力と軍事力があってこそだ。

 その下で日中韓やASEAN(東南アジア諸国連合)は、アメリカやEUと相互依存関係を深め繁栄してきた。
 また今後はTPP(環太平洋経済連携協定)も、米議会がオバマ大統領に交渉を一任する法案を通せば強力な後押しとなり、東アジアでの自由貿易体制を強化することだろう。

★.この数年、「現状維持」と「自由貿易」に波風を立ててきたのが中国だ。
 しかし習近平(シー・チンピン)国家主席は周永康(チョウ・ヨンカン)を除去して公安部門と石油閥を握り、徐才厚(シュイ・ツァイホウ)を逮捕して軍を掌握した。習の国内基盤は堅固となり、積極的な外交に打って出る状況が整った。

■今年を占う3つのヒント

 ASEANに友好姿勢をアピールする一方、日本に対しては戦後70周年を喧伝して巧妙に牽制するだろう。
 中国お得意の微笑外交をもってASEANやアメリカから日本を引き離し、孤立化、無力化する戦略だ。

 日中以外に今年の東アジアを占うヒントは3つ。
 「ロシア」「朝鮮半島」「中国内陸部」だ。

■ロシア
  この年の節目の1つが5月9日、第二次大戦でソ連がドイツに打ち勝った戦勝70周年記念日。
 モスクワの盛大な式典にどの首脳が出席するかが、国際政治のリトマス試験紙となる。
 米ロ関係が悪いままなら(多分そのようになるだろう)、アメリカはEUや日本の首脳に出席を控えるよう頼んでくる。

 EUや日本が欠席すれば、ロシアの孤立が如実になる。
 逆にアメリカに逆らってドイツやフランスの首脳が出席した場合、それはアメリカとEUの離間だけでなく、EU・ロシア・中国による「巨大ユーラシア連合」の成立という印象を与える。
 同じく安倍首相が出席すれば、日米関係に害が及ぶ。

 原油価格の低落が続けば、ロシアは経済的に難しい状況に置かれる。
 中国の支援を受ければ、真綿で首を絞めるように中国に組み敷かれていくだろう。
 だからロシアは、この記念日に西側首脳を引き込みたい。
 そのためには欧米に対してはウクライナ問題、日本に対しては平和条約締結問題で実を示さないといけない。
 そうすればロシアは没落や孤立を免れ、東アジアで相応の存在感を維持できるだろう。

■朝鮮半島
 韓国や北朝鮮と日本との関係は、このような大国間外交の従属変数にすぎない。
 日中関係や日米関係が良ければ、韓国は日本との関係で前向きになる。
 逆に北朝鮮は中国、米国、韓国との関係が悪いと、日本に前向きになる。

■中国内陸部
 中国の力はこれからも増大するだろう。
 だが、すべての力が海洋方面に向かうわけではなく、摩擦の種はむしろ長大な国境を抱えた内陸部にある。
 北方のロシアと今は関係がいいが、かつては広大な領土をロシア帝国に奪われた屈辱の記憶が消えない。

 西方でも不安定要素を抱えている。
 中国が天然ガス需要の1割強を依存するパイプラインはトルクメニスタンからアフガニスタン国境近辺を通るが、この地域において新疆ウイグル自治区のイスラム過激派がテロを仕掛けると危ないことになる。

 中国というと東アジアでの海・空軍の活動を思いがちだが、むしろ留意すべきは北方や西方における陸軍の動向だ。

 中国も案外大変なのだ。
 GDPが日本の3倍になって、やっとバランスが取れる程度
──そう捉えられる冷静な視点と余裕が日本に求められている。

[2015年1月13日号掲載]



レコードチャイナ 配信日時:2015年1月16日 22時30分
http://www.recordchina.co.jp/a100755.html

国際テロ組織が中国への潜入狙う、
中国政府は対テロ戦略変更の可能性―露メディア 


●15日、ロシア政府系メディアのスプートニクは、イスラム過激派などのテロリストが中国社会への潜入を狙っており、中国政府は対テロ戦略を変更する可能性があると伝えた。写真は中国の特殊警察。

 2015年1月15日、環球時報(電子版)によると、ロシア政府系メディアのスプートニクは、イスラム過激派などのテロリストが中国社会への潜入を狙っており、中国政府は対テロ戦略を変更する可能性があると伝えた。

 中国司法当局はこのほど、テロに関わったウイグル族らを中国から不法出国させようとした疑いでトルコ人10人を逮捕した。
 トルコ人はウイグル族をシリア、パキスタン、アフガニスタンなどに送ろうとしたとみられている。
 これらの地域には過激派による「イスラム国」の影がある。
 中国政府はこのほど、初めて「外国人が国内でテロ活動に関与している」と発表した。

 トルコ人10人と同時に、偽造パスポートでの出国を試みたウイグル族も逮捕された。
 トルコ人が所属する地下組織は、ウイグル族から1人当たり6万元(114万円)を徴収していた。

 中国政府は国際的なテロ組織摘発を進めている。
 北京は新疆ウイグル自治区の分離独立の拠点となっており、当局は対テロ戦略を変えざるを得ない状況だ。
 「イスラム国」の台頭で事態は深刻化し、中国もテロリストの標的になっている。



JB Press 2015.01.20(火)  宮家 邦彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42699

フランスより中国の方がずっと危ない理由
欧州イスラム過激派テロ事件に便乗する中国の底意

 1月7日正午前、パリ11区にある風刺週刊誌「シャルリー・エブド」本社をイスラム過激派兄弟2人組が襲撃し、警官、編集長、風刺漫画担当者を含む12人を射殺した。
 翌日、翌々日には別のテロ犯が警官と人質5人を殺害した。

 欧米と中東を揺るがす大事件だったが、中国側の反応もなかなか興味深い。
 というわけで、2015年初となる今回は欧州でのイスラム過激派テロに対する中国の動きを取り上げる。

■ブルカ禁止法を導入した中国

 今回「さすが」と思ったのは中国側の素早い行動だ。
 「新疆ウイグル自治区のウルムチ市内でイスラム女性の伝統的衣装である『ブルカ』の着用を禁止する法案が可決された」
と報じられたのはパリでのテロ事件発生からわずか3日後。

 同決定は1月10日付の新疆ウイグル自治区第十二期人民代表大会常務委員会第13回会議を通過し、関係者の意見を踏まえ適宜修正の上で正式に公布されるという。
 この新疆ウイグル自治区のイスラム教徒を狙い撃ちするような規則をウイグル人はどう感じているだろうか。
 筆者には、フランスの「ブルカ禁止法」に倣って対イスラム教徒弾圧を強める「便乗措置」としか思えない。

 中国には2001年の9.11直後にもウイグル人に対する弾圧を強化した前科がある。
 しかも今回は、一体何が禁止されたのか、誰にも分からない。
 その理由から説明しよう。

●そもそも、この決定なるもの、「ブルカ」の着用だけを禁止する規定なのだろうか。
 中国語原文には「乌鲁木齐市公共场所禁止穿戴蒙面罩袍的规定」とあるだけだ。
 直訳すれば、
 「ウルムチ市内の公共施設内で覆面の上っ張りを着用することを禁止する規定」
である。
 要するに、
 「人間の顔を覆うようなものを着てはならない」
ということなのだろう。

●これなら「ブルカ」の着用は間違いなく禁止だ。
 狭義の「ブルカ」とはアフガニスタンやパキスタン北部などで見られる女性用の民族衣装を指し、目の部分も網状になっており、女性の顔が完全に隠れるからだ。

 「ブルカ」はイスラム系の女性用着衣の中でも最も顔を隠す程度が高く、外からは瞳や眼差しすら見えない。
 一種の完全防護服といってもいいだろう。

●次に顔が見えないのは「二カブ」だ。
 多くの場合、「ニカブ」は1枚または2枚の黒い布で目以外の顔を隠す衣服を指し、筆者の知る限り、湾岸アラブ諸国で多く見られる。

 「目が見える」と言っても、それ以外は真黒なのだから、外から見れば、顔の形状どころか、女性の年齢すらほとんど分からない。
 ブルカに次ぐ完全防御服であり、同種ものは「アバヤ」とも呼ばれている。

●これに対し、頭髪は隠すものの、目鼻口などは隠さない衣装が「チャドル」または「ヒジャーブ」だ。
 色は黒が一般的でイランやエジプトでよく見かけるが、黒以外にも色彩は豊かだ。

 頭部と肩を隠して顔だけ出す長いスカーフ状のものから、より長く下半身まで隠すものまで種類も多い。
 イスラム共和制のイランでも、最近はチャドルを少しずらして頭髪を見せるスタイルが増えており、それがオシャレにもなっている。

★.さて、中国政府はブルカ、ニカブ、チャドル、ヒジャーブのうち一体何を禁止したのだろうか。
 実はよく分からない。

 昨年12月にウルムチで撮った写真を見直してみたが、そこにはブルカはもちろん、ニカブすら写っていなかった。

 散見されたのはチャドルないしヒジャーブだが、それも普通のスカーフを頭に巻いたものがほとんど。
 ブルカのような顔全体が隠れる衣装など着ているウイグル人女性には遭遇しなかった。

■フランスの「ブルカ」禁止法

 フランス「ブルカ」禁止法の起源は1905年に遡る。
 フランス革命の精神に基づき、当時の議会は、カトリック聖職者が支配していた学校を世俗化するため、学生と教師が宗教的シンボルを身につけることを法律で禁止したのだ。

 さらに、2004年にはこの法律を根拠に、フランス公立学校でのブルカ着用を禁ずる判決を裁判所が下している。
 その後、2010年には新たに、「公共の場で人の顔を隠すことを禁ずる法律」が制定された。これが現在いわゆる「ブルカ禁止法」と呼ばれるものだが、内容は中国の新規定と基本的に変わらない。

 いずれも「公共の場で顔を隠す行為」一般を禁止するだけで、特定の宗教を差別しているわけではないからだ。
 ただし、既にご説明した通り、フランスと中国ではこの禁止法に至る背景が大きく異なっている。

 フランスの「禁止法」は「人間の理性」が「宗教的権威」に勝利した結果を維持するためのものであるのに対し、中国の「禁止法」は漢族による少数民族弾圧を維持するための手段でしかない。

 中国が欧州にも同様の規定があることを理由に「ブルカ禁止法」を正当化するなら、中国はまず、欧州と同様、「言論・表現の自由」を頑なに擁護すべきだろう。
 当然ながら、中国共産党にそんなことは不可能である。

■反中風刺画に過剰反応する中国

 フランスでのテロ事件について中国政府は沈黙している。

 最近の中国メディアも、
 「すべてのテロ行為を厳しく取り締まるべし」
とする一方、
 「この(パリ襲撃事件の)悲劇は報道の自由に限度を設けるべきであることを示した」、
 「メディアは無責任な発言を慎むべきだ」
などと報じ、表現の自由がある程度制限されても仕方がないと言わんばかりの主張を繰り返している。

 要するに事件の本質を理解していないのだ。
 それどころか、中国国有メディアは欧州の「言論・表現の自由」の象徴とも言うべきフランス風刺画の一部を差別的だとして批判している。
 例えば、右上の風刺画(リンク先はこちら)を見てほしい。



 1月17日付の環球時報は雑誌フリュイド・グラシアルが掲載した風刺漫画に噛みついている。

 風刺画のタイトルは「黄禍はすでに到達、遮断は遅すぎたか?」、ベレー帽をかぶった典型的フランス紳士が人力車を引いている。
 その人力車には中国人成金と金髪美女が乗っている。
 中華レストランの前ではフランス人のホームレスが飢えている。
 中国人がパリを傍若無人に闊歩・占領する姿をコミカルに描いたものだ。

 この風刺画に対し中国人の識者は、
 「黄色人種脅威論なる言葉で中国人を辱めるは非常に失礼だ」、
 「最近起きている風刺画をめぐるテロ事件を通じて、すべての人が自分たちのユーモアを理解するわけではないことがフランス人にも分かっただろう」
などと批判している。

 確かに「黄禍」とは穏やかではないが、この漫画を見ていると、黄禍論よりも、1970~80年代の日本の農協団体旅行を思い出す。

 結論を急ごう。
 中国政府の本音はこうだ。
 今回の事件は「欧州の9.11」とも言われているが、中国は2001年の際と同様、事件をウイグル人に対する弾圧強化の口実に利用した。

 欧州人が命の次に大切にしてきた「世俗主義」に基づく「言論・表現の自由」には見向きもせず、対テロ戦のための連帯だけに便乗した。
 このような姑息なやり方をウイグル人とイスラム過激派の連中はいかに受け止めるだろうか。

 筆者は極めて悲観的だ。

 北京はイスラムを力で抑え込めると信じている。
 欧州の悲劇に乗じ国内のイスラム教徒弾圧を強化するような今の中国のやり方ではウイグル人との共存など不可能だ。
 今こそ北京は彼らとの妥協・和解を模索する時期ではないか。

 さもないと、現在欧州で起きていることが、そう遠くない将来、新疆ウイグル自治区だけでなく、中国各地で発生する可能性があるかもしれない。



サーチナニュース 2015-02-03 10:47
http://news.searchina.net/id/1559974?page=1

「イスラム国」が中国の脅威に
・・・中央アジアで勢力拡大、
天然ガスのパイプライン攻撃の可能性

 新華社系の中国メディア「参考消息網」は3日、ロシアでの報道を引用して、トルクメニスタンとアフガニスタン国境地帯で、過激派組織「イスラム国」の活動が見られることから
  「中国への天然ガスのパイプラインが直接の危険にさらされている」
と指摘した。

  記事は、アフガニスタン政府が国境地帯を統治できておらず、トルクメニスタンも統治力が低下しており武装力も弱体化しつつあるとの、ロシア紙の指摘を紹介。
 トルクメニスタンの場合には、
  「脅威は外部からのものでなく、自国内からのものだ」、
 「特に国境地帯では、防備が極めて薄弱」
と、同国当局が自国内におけるイスラム教原理主義者の増加を食い止められていないと指摘した。

 中国は、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンとの6カ国による、上海協力機構を結成している。
 同機構は軍事同盟の色彩が強く、最近ではイスラム教原理主義勢力によるテロ防止にも力を入れている。
 トルクメニスタンの不安定化は、上海協力機構参加国にとっての脅威になっている。
 中国はトルクメニスタンと国境を接しているわけではないが、トルクメニスタンは天然ガス産地であり、同国からウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタンを経由して、中国に天然ガスを供給するパイプラインが存在する。
  トルクメニスタン軍の現地部隊では、イスラム教原理主義勢力が「小部隊」で攻撃してきても、防御
は困難な状態という。


レコードチャイナ 配信日時:2015年2月4日 20時10分
http://www.recordchina.co.jp/a101905.html

中央アジアにもイスラム国の影、
中国天然ガスパイプラインが危険な状況に―ロシア紙

 2015年2月3日、ロシア紙ニェザヴィーシマヤ・ガゼータによると、トルクメニスタンとアフガニスタンの国境付近に過激派組織「イスラム国」が出没している。
 その影響で、中国の天然ガスパイプラインが危険な状況にさらされているという。
 中国新聞社が伝えた。

 アフガニスタン西北部では、一部のトルクメニスタン人が早期からタリバンと行動を共にしている。
 トルコの影響もあって現地では汎テュルク主義が受け入れられており、イスラム過激思想の影響も強い。
 トルクメニスタンやアフガニスタン国境付近の不安定さが中央アジアとカスピ海周辺の地域に及んでいる。

 トルクメニスタンは隣国ウズベキスタンの不安定要素の原因になっており、その影響で中国に天然ガスを供給しているパイプラインが危険にさらされている。
 永世中立国であるトルクメニスタンは軍事力の削減を行っており、安全保障能力は低く、タリバンの小規模部隊にも対応できない状態だという。



テレ朝 news ANN ニュース 最終更新:2月6日(金)8時31分
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20150206-00000007-ann-int

「イスラム国」 中国人含む戦闘員120人処刑か



 中国共産党系のメディアが、過激派組織「イスラム国」がこの半年間で中国人3人を含む120人のメンバーを処刑したと伝えました。

 「環球時報」は5日、イラクのクルド人地区の治安当局者の話として、イスラム国がこの半年間で約120人のメンバーを処刑したと伝えました。
  多くはイスラム国から逃亡を図ろうとした戦闘員だということです。そのなかには、ウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」の中国人3人が含まれていたとしています。
 中国外務省・洪磊副報道局長:
 「中国はあらゆる形のテロリズムに反対だ。中国は国際社会とともに、(ウイグル独立派の)東トルキスタン・イスラム運動を含むテロ勢力を打撃し、世界の平和と安定を守っていきたい」

 中国では、ウイグル族の不法出国が相次いで摘発されていて、当局は、イスラム国への合流や国内でのテロにつながる可能性があるとみて警戒を強めています。



JB Press 2015.02.10(火)  姫田 小夏
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42849

中国が直面する新たな脅威、
少数民族独立派が続々とイスラム国に過激派ウイグル人が中東で戦闘訓練

●北京市内の天安門広場で群集に突入し炎上した車から立ち上る黒煙と、道路を封鎖する警察車両(2013年10月28日撮影、資料写真)。〔AFPBB News〕

 イスラム過激派組織「イスラム国」が日本人2人を殺害し、日本もテロの恐怖と無縁ではなくなってきた。
 中国にとってもイスラム国は新たな脅威となっている。
 中国の西端、新疆ウイグル自治区にイスラム国の影が延びているのだ。

 イスラム国は2万2000人余りの戦闘員を抱え、外国籍の戦闘員は5500人に及ぶとされている。
 その中には中国籍の戦闘員も存在する。
 そして、そのほとんどが新疆ウイグル自治区の少数民族であるウイグル人だと言われる。

★.彼らは、中国語で「東突分子」と称される過激派ウイグル人だ。
 「東突」とは
 「東トルキスタン・イスラム独立運動」
 「東トルキスタン解放組織」
 「東トルキスタン・ニュースセンター」
などの組織の総称である。
 中国によるウイグル侵攻(1949年)、自治区成立(55年)を経て、多数のウイグル人がトルコなど諸外国に離散した。
 その後、この「東突」が、中国からの分離独立を海外から支援するようになった。

 今、新疆ウイグル自治区からシリアに密航するウイグル人が増えている。
 きっかけは2011年に始まったシリアの内戦だ。
 東トルキスタン・イスラム独立運動はその機関紙で「2014年からシリア政治危機に介入する」と宣言し、イスラム国に呼応した。
 イスラム国に参加した東トルキスタン・イスラム独立運動の指導者、アブドラ・マンスールは
 「中国政府との戦闘はイスラムの職責だ」
と明言したと言われている。

■東南アジア経由での密航にシフト

 シリアの混乱とともに、中国国内でも過激派ウイグル人の移動が活発になっている。
 近年では、2013年10月、天安門前の歩道に自動車が突入し、炎上した「天安門広場自動車突入事件」や、新疆ウイグル自治区のウルムチ市で発生したテロ事件「ウルムチ駅爆発事件」などが記憶に新しい

 2014年3月1日、中国雲南省昆明市の昆明駅で起きた無差別殺傷事件も残忍なものだった(本コラム「抑圧がますますエスカレート、迷彩色が街を支配する中国」「安心と安全を求めて日本にやってくる中国人旅行客」を参照)。
 昆明駅に男6人女2人の集団が侵入、手に持った大なたで人々を殺傷した、あの事件だ。当時、これは
 「新疆ウイグル自治区の分裂主義勢力による組織的な暴力テロ事件」
と特定されたが、それは
 「専門的訓練を積んだ者たちによる犯行」
だったのだ。


●マークが示している場所が昆明。東南アジア経由で過激派ウイグル人が中東に渡っている(Googleマップ)

 その犯行の背景には、密出国の失敗があった。
 中国メディアは
 「彼らはもともと雲南省の国境地帯から密航しようとしたが失敗し、その直後、昆明駅でのテロに及んだ」
と報じている。
 この報道から、
★.密出国に使う国境地帯が南部へ移動していること、
 そして「聖戦参加のためのネットワーク構築」が相当進んでいること
がうかがえる。

 密航者は新疆ウイグル自治区から雲南、広西、広東に飛び、当地の密航組織「蛇頭」に橋渡しをしてもらい、ベトナムやミャンマーに入る。
 蛇頭は密航者をマレーシアやインドネシアまで運び、そこからトルコに出国させる
――そんな密航ルートが出来上がっているのだ。

★.2014年10月には、マレーシアのクアラルンプールで、密航する155人の新疆出身者が捕まった。
 2015年1月には、300人を数える中国人がマレーシアを経由してイスラム国に渡ったと報じられた。

 マレーシアは中国人観光客に対し、ビザ取得費の免除措置を実施している。
 また通関も容易なことから、過激派ウイグル人の密航の巣窟となっている。

■トルコからシリアに入り戦闘訓練を受ける

 一方、トルコのイスタンブールには「東突教育と互助会」と名乗る組織がある。
 新疆ウイグル自治区の出身者を東トルキスタン独立運動に参加させるための組織である。
 トルコに入国した新疆出身者を“スカウト”して回り、選抜した者に思想教育を行って洗脳しているという。

 トルコ国境から陸路でシリアに入国した過激派ウイグル人は、そこで中国との戦闘に備えて訓練を受け、イスラム国の「聖戦」に参加する。
 最近中国当局は、留学目的でトルコに入国し、のちに東トルキスタン独立運動に加わったウイグル人を拘束した。
 「環球時報」はその証言を次のように伝えている。
 「私は洗脳を受けた後、シリアのアレッポにある訓練所に送られ、7日間の強化訓練を受けた。
 その後、新たな任務を与えられた。
 それは『中国での聖戦』であり、新疆における破壊活動だった」

 これを機に中国当局は、一度出国した過激派の密入国を阻止するため、新疆ウイグル自治区の国境警備を強化するようになった。
 密航ルートが東南アジアにシフトしているのは、過激派ウイグル人にとって新疆経由での出入国が厳しくなったことに起因している。

■中国の懸念はアメリカが新疆独立を支援すること

 過去にイスラム国は次のように宣言したことがある。
 「5年以内に西アジア、北アフリカ、中央アジア、欧州のイベリア半島、バルカン半島、クリミア半島、およびパキスタン、インド、中国新疆を占領する──」

 イスラム国の最高指導者とされるアブ・バクル・アル・バグダディが、中国を攻撃対象として名指し、新疆ウイグル自治区の“解放”に高い関心を示しているのだ。
 彼は中国の対新疆政策を批判し、かつ中国政府に対し、中国国内のムスリムと全世界のムスリムに忠節を尽くすよう要求している。

 危機感が高まる中国では、2014年から「出兵問題」に注目が集まっている。
 すでに有志連合には60カ国以上が加わり空爆を行っているが、中国国内では、中国が有志連合に加わるかどうかについて侃々諤々 (かんかんがくがく)の議論が展開された。
 その最大の焦点は、アメリカとの利害関係である。

 中国には「どの国とも連盟は結ばない」というポリシーがある。
 また敵が多いアメリカと歩調を同じくすれば、中国に危機が及ぶ懸念もある。
 指揮権がアメリカにあるというのも面白くない――。
 アメリカが主導する有志連合に対し、中国が背を向けているのはこうした理由がある。

 その中国がもっとも危惧するのが、アメリカの新疆独立支援だ。
 中国は、アメリカがテロ撲滅に乗じて新疆問題に斬り込んでくることを危惧している。

 中国では、「『新疆の民族独立運動はテロではない』という前提を作れば、アメリカの介入を阻止できる」「アメリカと歩調を合わせ、恩を売る手もある」など、さまざまな意見が交錯した。
 中には「出兵してアメリカを支持する代わりに、南シナ海、台湾海峡、香港問題などについては中国を支持させよ」などという“取引”を提案する声もあった。

 だが、
 少数民族問題を抱える中国に、いつものような大胆さはない。
 それどころか、
 長らく封じ込めてきた新疆問題が世界共通の国際問題として俎上に上がることへの狼狽
すら見て取れる。

 その中国が最近「ピンポイント支援」の提案に乗り出した。
 相手国は、石油産業にすでに巨額の投資しているイラクである。
 2014年12月の英『フィナンシャル・タイムズ』紙は、王毅中国外交部長がイラクのジャアファリー外相に対して、イスラム国との戦いの支援を申し出たことを伝えた。
 この会談で中国は、アメリカ主導の有志連合に参加せず単独で空爆支援をすること、有志連合の枠組みの外で協力することを明らかにした。

 内外に火種を抱える中国。
 イスラエルの情報によれば、イスラム国には1000人以上の過激派ウイグル人がいるとも言われている。
 複雑な利害関係を抱える中国の今後の出方が注目される。



 ダイヤモンド・オンライン  2015年2月13日 姫田小夏 [ジャーナリスト] 
http://diamond.jp/articles/-/66694

中国国内テロ過激化の陰に「イスラム国」の存在
このままでは新シルクロード計画も水泡に?

 昨年12月、中国の李国強首相はカザフスタンのアスタナで開催された第13回上海協力機構(SCO)加盟国首脳会議に出席した。

 SCOは、ソ連崩壊とともに誕生した中央アジアの新興国と、その国境地帯の安定のため「上海ファイブ」(1996年4月発足)を母体に、2001年6月にウズベキスタンを加え、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6ヵ国で正式に発足した多国間協力組織である。その後、一貫して国際テロや民族分離運動などに対する共同対処を主要テーマに掲げてきた。

 第13回のSCO首脳会議は安全保障が最重要課題となった。
 李国強首相が「地域安全・安定のバリアをしっかりと築く」――と述べた背景の1つには、中国新疆ウイグル自治区からのウイグル人の流出問題がある。
 近年来、数千人にも上るウイグル族が中国を脱出しているとも言われているのだ。

■ムスリムであるウイグル族と漢民族には深い断絶が

 新疆ウイグル自治区では少数民族に対する抑圧、弾圧、差別が過去から存在したが、それがより強化される昨今、ウイグル族は以前にも増して中国から脱出するようになった。

 昨年は中国各地で暴力事件がたびたび起きた。
 中でも新疆ウイグル自治区といえばテロの多発地で、2014年5月のウルムチ市の爆発事件は中国全土を震撼させた。
 「爆発があと3時間遅ければ…」と、新疆訪問中の習近平国家主席を狙ったとされる犯行の大胆さに、中国の民衆は肝をつぶした。

 この爆発事件後、新疆ではテロ活動に関わったとされる数百人が逮捕され、12人が死刑判決を受けた。
 近年はこうした暴力事件が繰り返されるたびに、ウイグル族に対する高圧的な締め付けがその度合いを増すようになっている。

 ちなみに、ウイグル族と言えば、遊牧民をルーツとするウイグル語を話すムスリムであり、中国の9割以上を占める漢族とはまるで違う。
 わかりやすい例が、サッカー・ワールドカップであり、中国ではなくトルコを応援するウイグル族は少なくない。

 彼らにアイデンティティを聞けば「中国人」だとは回答しないだろう。
 普通語を流暢に話すウイグル族は少数で、経済活動や生活習慣において漢民族との間に深い断絶が存在し、埋めようのない生活格差が存在する。

 弾圧回避を目的に中国を脱出するウイグル族がいる一方で、「東突分子」と称される過激派ウイグル族の密出国がある。
 「東突」とは「東トルキスタン・イスラム独立運動」、「東トルキスタン解放組織」、「東トルキスタン・ニュースセンター」など、反中国政府組織の総称である。

 トルコにはこれら組織が拠点を置き、新疆独立支援を行っている。
 中国は1949年にウイグルに侵攻し、1955年に新疆ウイグル自治区を設立したが、その際、多数のウイグル人が諸外国に離散し、多くがトルコに定住した。
 その一部勢力が中国国内のウイグル族とつながり、外から独立運動を支えているのだ。

 ウイグル族が目指すのはトルコだが、出国の自由は制限されており、彼らのほとんどが旅券を持たないため、海外に渡航しようと思えば、密出国を幇助する組織に身を委ねるしかない。
 すでにウイグル族をトルコに送り込む地下組織は、網の目の如く発達しているという。

■中国国内のテロ組織が「イスラム国」で訓練?

 中国にとって頭の痛い問題は、地下経路で密出国したウイグル族が「イスラム国」に加わっているという事実である。

  「東突分子」と言われる反政府組織の密出国の目的は、国外でテロ活動の訓練を受けること、あるいは人脈の構築にあると言われている。
 シリアやイラク国境から直接「イスラム国」に入るケースもあれば、東南アジアにある「イスラム国」の出先機関に加わるケースもある。
 新疆独立を支援する「東トルキスタン・イスラム運動」や思想教育を与える「東突教育と互助会」も続々と「東突分子」をシリア内戦の現場に送り込んでいると言われている。

 中国の中東問題の専門家は、中国メディアの取材に対し
 「東突が『イスラム国』を目指すのは、テロ活動とそのレベルを高めるためだ。
 同時に、組織の宣伝、勧誘、具体的なテロ手段などを学ぶ。
 彼らは中国に戻れば地位が向上する」
と答えている。

 中国にとり、さらに頭の痛い問題の二番目はまさしく「中国への帰国」である。
 「イスラム国」で訓練を受けた“人材”が、破壊活動を使命に中国への潜入を企てることにあるのだ。

 中国で起こるテロの多発と広域化、そして技術の高度化はこうした在外訓練に起因している。
 かつてはパキスタンやアフガニスタンが“訓練センター”の機能を負ったが、2014年以降、ウイグル族のトルコでの受け皿である「東トルキスタン・イスラム運動」が「イスラム国」に呼応してからは、「イスラム国」が彼らに聖戦思想と実地訓練を与える“道場”と化した。

 近年、中国で起こる破壊活動には、過去には存在しなかった残忍さと大胆さが見て取れるようになったのもそのせいだ。
 昨年3月に起きた雲南省昆明駅の多数の一般市民を大鉈で殺害した事件などは、今の「イスラム国」に見る、血も涙もない無慈悲な殺害に共通するものがある。

 他方、「イスラム国」の最高指導者バグダディも、イスラム教を信仰するウイグル族への弾圧を理由に中国を敵視し、昨年「5年後に中国新疆を占領する」と宣言した。
 中国では今後、破壊活動やテロ行為がいっそう頻発し、過激化する可能性が高い。

 目下、中国政府は反政府組織をいかに食い止めるために「バリア」を高くし、また周辺国に対しては、密出国したウイグル人を追跡するよう圧力をかけている。

■早くも黒雲垂れ込める「新シルクロード計画」

 災いは中国が進める新シルクロード計画にも降りかかる。昨年11月、北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、中国が「新シルクロード計画」をぶち上げたことは記憶に新しい。
 鳴物入りで始まった「新シルクロード計画」は2015年から本格稼働させることになっているのだが、その幸先は決していいとは言えない。

 新シルクロード計画を一言で言えば、「中国の西進」である。
 この計画は、有事の海上封鎖を回避すべく、エネルギー輸送を陸路にシフトさせ、エネルギー供給を多様化させることを核心とするものだ。
 新疆とパキスタン、中央アジアを結ぶ道路・鉄道・パイプラインなど、中国はすでに数十億元の投資を行っている。

 西には資源があり市場があることを理由に、中国は周辺国との「開通」をキーワードに道を通し、物資や貨幣を流通させることで、中国西部の経済発展に結び付けようと目論んだ。
 新疆ウイグル自治区は中国の西進の拠点であり、物流の中継点として、新シルクロード計画の橋頭堡だと言われている。
 この新シルクロード計画とともに、ウルムチを中心とした新たな経済圏を中国西部に確立することが期待されているのだ。

 だが中国は、国内で過激化するウイグル族を抱え、国外で「イスラム国」に睨まれ、と内外にテロの脅威を抱えている。
 中国が目指すところの「西進」は、まさにイスラム世界への斬りこみでもあり、イスラム原理主義が活発化すれば新シルクロード計画も座礁しないとは限らない。
 また「開通」政策は、経済効果が見込めたとしても、反政府過激派の往来も許すという意味では諸刃の剣にもなり得る。

 これまで、中国は新疆問題を論じることを内政干渉だとしてタブー視し、イスラムの存在についてはこれを軽視し、蓋をし、遠ざけてきた。
 結果、根深く対立する敵を作ってしまった。
 その一方で、一部の中国人学者が
 「新疆問題の根本的解決と中国の中央アジア戦略は密接にして不可分だ」
と警鐘するように、いよいよそれは避けては通れない問題になってきた。

★.シルクロードの出発点となる新疆がこれほどの矛盾を抱える限り、
 新シルクロード計画が健全な発展を望むのは困難だ。
 中国が今やるべきは、インフラ整備よりも先に国内の新疆政策の見直しにあるのではないだろうか。


毎日新聞 2015年01月19日 20時43分(最終更新 01月20日 00時10分)
http://mainichi.jp/select/news/20150120k0000m030080000c.html

中国:ウイグル族ら852人検挙 密出国図った疑い

 【上海・隅俊之】中国公安省は18日、広西チワン族自治区や雲南省など中国南西部の国境地帯から密出国を図ったとして昨年5月以降、852人を、これを手助けしたとして352人を検挙したと発表した。
 密出国を図った大半は新疆ウイグル自治区のイスラム教徒のウイグル族とみられ、公安当局はウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」が、イスラム国が勢力を伸ばすシリアなどで「聖戦」に参加するよう扇動しているとしている。

 東南アジアと国境を接する南西部では近年、ウイグル族によるとみられる不法越境事件が相次いでいる。
 中国メディアによると、ベトナムと国境を接する広西チワン族自治区憑祥市でも18日夜、密出国しようとしたウイグル族数人に警察当局が発砲。
 ウイグル族2人が射殺され、1人が拘束される事件が起きた。

 国営新華社通信によると、一連の事件で密出国を図った者の多くが、中国当局が違法だとするイスラム教の「地下説法」に参加したり、暴力テロに関する動画を見たりしており、一部はシリアなどで「聖戦」に参加するつもりだったと供述しているという。
 また、中国中央テレビは、検挙された一人は、マレーシアからトルコを経てシリアに向かう予定だったと供述したと報じた。

 公安省は、中国当局がテロ組織として非難するETIMが背後で指示し、過激な宗教思想を吹き込んでいると指摘している。
 中国メディアによると、中国はトルコとの間で、新疆ウイグル自治区からトルコに向かう「テロ容疑者」の情報交換などを強化する方針。

 ただ、新疆ウイグル自治区では、若者がヒゲを伸ばすことや女性がスカーフで顔を覆うことが禁止されるなど、イスラム教を信仰するウイグル族の宗教的な習慣を否定する政策がとられ、反発する者は取り締まりの対象になってきた。
 抑圧を逃れるために国外脱出を望むウイグル族も多く、摘発された人の中には「亡命」を図ったケースもありそうだ。

 中国国内でウイグル族によるとみられる事件が相次ぐ中、中国当局には摘発キャンペーンを発表することで、中国もイスラム過激派による「組織的なテロ」の被害者だと強調し、欧米の「テロとの戦い」と共闘するとの意思を強調する狙いがあるとみられる。


毎日新聞 2015年02月22日 11時57分(最終更新 02月22日 13時54分)
http://mainichi.jp/select/news/20150222k0000e030102000c.html

中国:脱出相次ぐウイグル族 強まるイスラム教抑圧

 【上海・隅俊之】中国で新疆ウイグル自治区のイスラム教徒ウイグル族による不法出国が相次いでいる。
 多くは東南アジアに向かい、一部は歴史的につながりの深いトルコに逃れている。
 中国当局はウイグル独立派組織がシリアなどの過激派組織への参加を扇動していると主張するが、宗教的な抑圧から逃れようと脱出を図った人も多いとみられている。

 「あそこではもう暮らせない。妻は(ベールで)頭部を覆うことができない。(自由に)祈ることも禁じられている」。
 中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、自治区から1年以上かけてトルコ中部カイセリに逃れたウイグル族の男性はこう訴えた。
 男性は友人が警察に逮捕されたのを機に、自らの身にも危険が迫っていると判断、中国からの脱出を決意したという。

 男性にはパスポートがないため徒歩で密出国、28日間かけてベトナムに着いた。
 あっせん業者の手助けでカンボジア、ラオスを経てタイへ。さらに真夜中に小さなボートで海を渡り、密出国から3カ月後にマレーシアに到着。
 同地のトルコ大使館に助けを求め、トルコへ逃れた。

 逃避行には子供3人と妻を同伴した。食事は主に卵やアーモンド。森では木の葉や雨水でしのいだ。一緒にボートに乗った別の家族の5歳の女の子は途中で海に落ち、誰も泳げなかったため助けられなかったという。

 中国当局は新疆ウイグル自治区で相次ぐ爆発物などを使った暴力事件を背景に、ウイグル族への締め付けを強化している。
 米政府系の自由アジア放送(RFA)によると、17日にも自治区のアクス地区バイ県で、警官とウイグル族が衝突。
  警官4人を含む計17人が死亡した。
 警察が民家に集まっていた10人程度に解散を命じたところ、ナイフやおので襲われ、警官側の発砲で通行人4人も犠牲になったという。

 当局は先月18日、不法出国の疑いで検挙したウイグル族などが昨年5月以降852人に上ると発表。
 国営新華社通信は、容疑者の一部がシリアなどで「聖戦」に参加するつもりだったと供述した、と伝えた。

 中国当局は、独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」がウイグル族に過激な宗教思想を吹き込んでいると主張。
 複数の外交筋も、ウイグル族がシリアなどで過激派組織に加わっているケースがあるとみる。
 当局は、過激派との連携を強めた「帰還戦闘員」が中国でテロ活動を行うことを強く警戒しているようだ。