2015年の経済成長率は「7%」だろうと発表された。
ちょっと前までは「7.1%」であった。
今年の中頃には「6.9%」になるかもしれない。
『新常態』とは
「お金持ちはよりお金持ちに、貧乏人はそれなりに貧乏に」
ということである。
何かすごいことがおこりそうな言葉ではあるが、内容は貧困そのものである。
パイが大きくなるときは取り分が増えるので問題ない。
パイが縮み始めると、自分の取り分を相手から奪ってこないといけない。
そこで、握ったサイフをふくらませるための略奪が日常化する。
新常態とは、縮まるパイの上に新たにはられたシールで、
「取り合い激化につき注意」
といったところになる。
「日常化する略奪」が今年の中国共産党のテーマになる。
誰が略奪王になるか。
パイが小さくなるかぎり、この略奪抗争は永久に続く。
『
JB Press 2015.01.05(月) 阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42544
中国共産党内の本格的権力闘争がついに幕開けか
令計画が「落馬」、
習近平の腐敗追放キャンペーンは新段階に
12月22日、中国共産党中央統一戦線工作部長(全国政治協商会議副主席を兼務)の令計画が党中央規律検査委により立件された。
いわゆる「落馬」である。
令計画の「落馬」は、かねてより噂されていたことから、サプライズ感はなかった。
むしろ、遅かったくらいだ(12月31日、令計画が統一戦線工作部長の職を解任されたと報じられたが、兼職している全国政協副主席については触れられていない)。
しかし、令計画の落馬をどう見るかは、実は簡単な話ではない。
巷間、令計画を含め、すでに失脚した薄熙来、周永康、徐才厚と合わせ、「新四人組」という言い方がされてきた。
この「新四人組」とは、習近平に取って代わり、薄熙来を首班とするクーデター計画の首謀者とされている。
公安・警察・司法を周永康が押さえ、人民解放軍は徐才厚、党は令計画が押さえることによって、薄熙来政権を打ち立てようと目論んだとされている。
もちろん、証拠はない。
あったとしても表に出てくるわけではない。
クーデター実施の期日は2012年3月19日とされ、当日、北京で銃声が聞こえたという話もまことしやかに流れたが、もちろん真偽の程は不明だ。
確かなことは、クーデターは不発だったということだ。
というよりも、王立軍(当時重慶市副市長、前重慶市公安局長)が四川省成都市の米国総領事館に駆け込み、薄熙来事件の発端となったのが2012年2月6日で、1カ月後の3月15日には薄熙来が重慶市党委書記を解任されている事実に照らして、クーデターなど企てる余裕はすでになかったはずだ。
「新四人組によるクーデター」シナリオは疑わしい
しかし、本当に「新四人組」と言われるほど、この4人は結束していたのだろうか。
薄熙来と周永康の関係が緊密であったことは言うまでもない。
また、薄熙来と徐才厚も大連を中心とした東北の利権でつながり、周永康と徐才厚も愛人を「共用」していたなどという下世話な話が出てくるくらいだから緊密だったのだろう。
しかし、そこになぜ令計画が加わるのかが解せない。
令計画のウィキペディアの記事を見ると、令一家は山西省の出身である。
父親の令狐野は1930年代末に中国共産党に入党した医師で、同じく山西省出身の薄一波の親友であったとされている。
これが事実なら、薄熙来と令計画は、山西省という地縁でつながり、かつ父親同士が親友であったことでもつながってくる。
しかし、この2人がたとえ懇意の間柄であったにせよ、クーデターを共謀するほどの親密な関係だったという話にはつながらない。
なお、1909年生まれの令狐野は、105歳で健在である。
よって、筆者は「新四人組によるクーデター」シナリオについてはかなり懐疑的である。
もちろん、「何でもあり」の中国を前提に置けば、「絶対ない」とは言い切れない。
だが、令計画は他の3人と比べ、やはりキャリアは異質であり、少なくとも「野心家」の気配は窺われない。
「だから君の中国分析は甘い」
「君は中国人の本質を知らない」
と誹られるかもしれないが、「間違っていたらすみません」としか言いようがない。
■党中央政治局入りを前に「左遷」
令計画は、1975年に地元・山西省の「共青団」(中国共産主義青年団:胡錦濤をトップとする共産党指導の青年組織)に入り、79年に北京の共青団中央に抜擢され、宣伝系統の活動に従事してきた。
88年より共青団中央書記処弁公室主任、共青団中央弁公庁主任を歴任して、当時の共青団中央書記処第一書記だった胡錦濤を支えた。
95年12月からは党中央弁公庁に移り、2002年11月の第16回党大会で党中央候補委員となり、直後の第16期1中全会(第16期党中央委員会第1回全体会議)で党総書記に就任した胡錦濤の秘書を務める。
2007年9月19日、党中央弁公庁主任に昇格、同年10月の第17回党大会で中央委員に選出され、第17期1中全会で中央書記処書記に任命された。
この経歴から分かるように、令計画は胡錦濤前主席の側近として仕えてきた人物である。
政治的野心を窺わせるものは見当たらない(ただし、その政治的地位に見合った余録を家族が享受していたことは否定できない)。
党中央弁公庁主任にまでなった令計画は、当然ながら2012年の党大会で党中央政治局入りする有力候補の1人となった。
だが、それを阻んだのが息子、令谷が2012年3月18日に起こした自動車事故であった。
同日早朝、北京市の四環路で黒塗りのフェラーリがスピードの出し過ぎで立体交差の橋脚にぶつかり、反動で道路の側壁に衝突した。
この事故で令谷は死亡し、同乗していた2人のチベット族女性(中央民族大学の学生)のうち1人は重度の火傷で後に死亡、もう1人は障害者になったという。
この事故だけでも、将来を嘱望されていた令計画にとっては大きなスキャンダルである。
党幹部の子弟が享楽的生活を享受しているという事実は間違いなくマイナスのイメージを与えた。
令計画は党中央弁公庁の警衛局を使い、事故現場を封鎖し隠蔽を図ったとして後に批判される。
また、令計画が事故の隠蔽を当時の中央政法委主任の周永康に依頼し、その配下の蒋潔敏(前国務院国有資産監督管理委員会主任)を使って、事故に関わった2人の女性の家族に「口封じ」のため数千万元を支払ったという話も囁かれた
(しかしこの話はマユツバものだろう。薄
熙来事件が明らかになった時期に、彼と親密な関係にあった周永康に事故隠蔽を依頼するというのは常識的にも、また党の高層における権力抗争関係を知悉している立場であれば、なおさらあり得ない話と言える)。
結局、令計画は2012年9月という党大会を目前に控えた時期に、中央統一戦線工作部長に「左遷」された。
ポスト的に言えば党中央弁公庁主任と同格だが、事実上の更迭であった。
当時の胡錦濤主席もかばい切れなかったのだろう。
■習近平による「共青団」人脈への宣戦布告か
しかし、令計画に対する追い落としの計略は、そこで終わるわけではなかった。
腐敗追及という「錦の御旗」により、令計画の兄、令政策(山西省政治協商会議副主席)が2013年6月に「落馬」したのがその一例である。
令計画の妹である令方針については、結婚相手の王健康が山西省運城市副市長の職にあったが、同年7月に汚職の容疑で勾留されたと報じられた(ただし、現在も現職にとどまっている)。
末弟の王完成は20年近く国営通信社である新華社に勤務の後、民間企業に転職し成功していたが、経済犯罪がらみで拘束されていると報じられた(2014年11月時点)。令計画の立件は、こうして「外堀」から埋める形でじわじわと迫られていたことが分かる。
では、習近平政権は一体どんな狙いで令計画を「落馬」させたのか。
まず、考えられるのは、狙いが山西省にあるということである。
山西省の省長を務めているのが元国務院総理である李鵬の息子、李小鵬だからだ。
国有の石油関連企業の腐敗を徹底的に追及してきた習近平にとって、次のターゲットとして李鵬一族の電力利権にメスを入れる可能性は否定できない。
ただし、令計画と李鵬一族との結びつきについては、明示的な情報は示されていない。
問題は、ターゲットが「共青団」人脈である場合だ
(中国共産党には大きく「共青団」「太子党」という2つの派閥があり、習近平は太子党側に属する)。
そして、可能性はこちらのほうがむしろ高いだろう。
というのも、2年後(2017年)の次期党大会を想定した場合、現在の「政治局常務委員」7名のうち、習近平主席、李克強総理を除く5名が引退年齢に達する。
政治局委員のなかから常務委員を選ぶとなると、「共青団」人脈である李源潮(国家副主席)、汪洋(副総理)、胡春華(広東省党委書記)等が有力候補となる。
常務委員の枠が7名を維持するとなれば、ここで名前を上げた人物が昇格するだけで、李克強総理を含めて4名を数える「共青団」人脈が多数派を占めることになる。
令計画を「落馬」させたことが「共青団」人脈に対する宣戦布告であるとすれば、これは江沢民の影響下にあった石油利権や、人民解放軍の腐敗摘発で事実上の共闘関係にあった共青団ひいては胡錦濤前主席に対する「挑戦状」となることを意味する。
すなわち、第2期習近平政権に向けた権力闘争が火蓋を切ったということである。
すでに、李源潮と令計画との「親密な関係」が取り沙汰されている。
ということになれば、話は令計画の「落馬」だけでは収まらない。
香港ソースで示唆されたような「李克強更迭」のようなサプライズもあり得るかもしれない。
まだ3年近くの任期を残す習近平政権第1期は、
権力闘争で明け暮れる
ことになりそうだ。
』
『
レコードチャイナ 配信日時:2015年1月7日 5時7分
http://www.recordchina.co.jp/a100199.html
<追求!膨張中国(8)>
「歴代王朝は腐敗で亡びた!?」
=習近平主席、汚職撲滅と大胆改革に賭ける
―「中興の祖」になれるか
中国で1949年の建国以来と言われる大がかりな汚職・腐敗撲滅運動が展開されている。
習近平氏が2012年11月に中国共産党の総書記に就任して以来、「虎もハエも叩く」の掛け声のもと、これまでに6万人以上の党員が処分された。
14年12月5日には胡錦濤政権時代に最高指導部の党政治局常務委員を務めた周永康氏が「重大な規律違反」容疑で逮捕された。
周氏は公安・司法分野の責任者を務めたほか、有力国有企業の中国石油天然気集団(CNPC)のトップの経歴もあり、長らく石油産業の中心人物でもあった。
従来、党政治局常任委員経験者は逮捕されないとの不文律を破ってまでも断行された背景には、いくつかの要因がある。
★.まず中国国内の格差拡大と腐敗のまん延を放置できなくなったことだ。
★.共産党統治の正統性が問われていることに危機感を抱き、
司法が及ばないとみられた周氏のような大物をサプライズ的に失脚させることで、
★.汚職一掃に真剣に取り組んでいるという強いメッセージを国民に送ることができると考えた
ようだ。
◆国民大衆は喝采送る
中国国内のインターネット空間には、習国家主席による汚職追放キャンペーンを肯定するメッセージが溢れている。
14年11月18日、中国の動画投稿サイトにアップされた習氏を礼賛する歌と動画は1週間で再生回数が4000万回を超えた。
今後、かつての薄煕来(元重慶市総書記)裁判のように、収賄、横領、権力乱用の訴求に対し、反論の機会を与えながら、腐敗撲滅に賭ける強い決意をアピールしていくとみられる。
公判報道は国民大衆への格好の教宣材料となるのだ。
「周失脚事件」は中国の党や政府の幹部に衝撃を与えている。
中国社会では収賄や利益誘導がまん延しており、次は自分のところに司直の手が及ぶかもしれないと懸念する幹部は多い。
党員は高級レストランで食事をしているところを目撃されたり、高価な時計を腕にはめていることをさとられたりすることも恐れている。
世界最大6億人のネット民がブログや中国版ツイッター(微博)などで目を光らせているのだ。
共産党や政府の役人が国家国民の利益より自己の利益を優先しているとの疑念を抱いている国民は多い。
◆「虎退治」、派閥に関係なく叩く
周氏逮捕の2週間後の12月22日、今度は胡錦濤前国家主席を輩出した共産主義青年団(共青団)出身の令計画・党統一戦線部長が取り調べを受けた。
江沢民元国家主席ら保守長老を牽制し権力基盤を強化することも狙っているようだ。
事情通によると、江、胡両氏は党の中核だった元幹部や有力者の家族に対する摘発を抑制すべきだと進言したものの習氏はこれを一蹴したといわれている。
国家主席や政治局常務委員経験者であっても摘発の例外としないことを示すことによって、政務や人事への介入を慎むよう警告する意味合いもあろう。
この腐敗撲滅運動は、党幹部の綱紀粛正、格差拡大の温床になっている国有企業改革、政敵打倒による権力基盤強化の「一石三鳥」を狙ったものといえる。
14年4月には江沢民氏に近い華潤グループ(電力会社)の宋林・董事長が巨額の汚職の疑いで捕まったが、宋林氏は、電力界の大物、李小鵬氏と緊密な間柄。
父親の李鵬・元首相や妹の李小琳とともに、中国の電力界をリードしている。
また同年9月には袁純清・山西省党書記が解任されている。
ともに共青団の有力メンバーである。
電力閥は、江沢民派でも共青団も差別なしに、「虎退治」のターゲットになっているのだ。
中国共産党幹部の腐敗は、救いようがないほど蔓延し、習氏は、このままでは中国が滅びてしまうとの危機感を抱いているとされる。
石油閥の後は電力閥が次の退治のターゲットになっているのは、ともに
巨大な独占的利益集団である国有企業
だからだ。
★.国有企業を抜本的に改革しなければ、中国の経済発展が行き詰まると考えている
という。
習近平国家主席への圧倒的な権力集中を背景に、規制緩和、権限委譲、国有企業改革、経済改革、司法改革、戸籍改革、地方財政改革を断行する構え。
★.習主席は「2020年までに改革達成」へ背水の陣を敷いており、
これらの大胆な改革が実現するかが中国の命運を握るカギとなる。
中国政治研究者によると、習近平政権の特徴は
(1).権力の集中と党内派閥(太子党、共産主義青年団)の解消
(2).空前絶後の腐敗撲滅
(3).大胆な改革
(4).厳しい言論統制
(5).改革派だけでなく保守派とも協調
-など。
広範な階層から支持されており、「中興の祖」となる可能性もあるという。
「皇帝が進める市場化改革」
と言えるが、民主化、言論の自由なしに進展するかどうか。
改革が進展しなければ、急速にレームダック化する可能性もある。
◆習主席、人民解放軍を掌握―江沢民派の影響排除
人民解放軍は元来江沢民氏の影響下にあったが、習主席は制服組トップだった徐才厚氏(江沢民派)を昨年、「反腐敗」の象徴として党籍はく奪処分にした。
ところが江沢民の影響を受けた者すべての粛清は非現実的だ と判断して、不問に付した。
象徴的な人物を見せしめ的に叩くことによって他の者たちに忠誠を誓わせ、この結果、習主席は人民解放軍を掌握した。
この点、江沢民の影響排除に失敗した胡錦濤前主席と異なる。
習近平国家主席は、14年12月22日、令計画氏の取り調べを公表した際、
「党内では絶対に封建時代の結託を再現してはならない。
仲間を呼び寄せて徒党を組み、特定の仲間だけしか入れない入場券を出すような、あの封建時代を再現してはならない。
全ての党員が平等に取り扱われ、平等に権利を持っていなければならない」
と警告した。
既得権益者=独占国有企業グループの腐敗にメスを入れなければ、これまでの歴代王朝時代と同じように、
65年続いた中国共産党「王朝」が崩壊する崖っぷちに追い込まれている
ことを自覚しているのだろう。
習氏が見据えるのは、党最高指導部の政治局常務委員7人のうち、習氏と李氏以外の5人が入れ替わる17年の次期党大会だ。
22年から始まる「ポスト習」時代の最高指導部の陣容もこのとき見えてくる。
江沢民、胡錦濤両氏は次期党書記を選べなかった。
習氏が自ら指名できれば、毛沢東、トウ小平両氏以来となり、この2人のカリスマに続く
「大物指導者の仲間入りする」
との説まで取りざたされている。
(八牧浩行)
』
『
JB Press 2015.01.27(火) 姫田 小夏
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42744
日本企業に飛び火する反腐敗キャンペーン
必要悪だった中国人幹部の「やりたい放題」
習政権が発足して以来、一貫して唱えてきたのが「反腐敗」だ。
「物が腐れば虫がわく」――。
2012年11月、習近平氏は政権の座に就くやいなや、「汚職がひどくなれば党と国は亡ぶ」と反腐敗の重要性を訴えた。
反腐敗キャンペーンはその翌年から強化された。
「役人の公費による旅行、自動車購入、接待」への規制が強まり消費が冷えこんだが、「ソ連崩壊を招いたのは共産党の腐敗だった」と信じる習氏は手綱を緩めない。
この反腐敗キャンペーンは、「相手を選ばず、権力の有無を問わず、汚職の事実があれば摘発を行う、共産党の存亡に賭けた闘い」(「人民日報」系列の雑誌「環球人物」11月号)だという。
習政権は、「2021年の建党100周年」を目指し、法律化と制度化を進め、汚職撲滅を遂行すると宣言している。
この反腐敗キャンペーンがいよいよ日本企業にも及ぶようになった。
日系企業の中国人幹部が捜査の対象になったのだ。
2014年12月19日に、日産自動車の中国合弁会社の副総裁が“重大な規律違反と違法行為の疑い”で調査の対象になっている、とする発表が行われた。
また、12月31日には、ホンダの中国合弁会社・東風ホンダの副社長ら中国人幹部2人に、党内職務の解任などの処分が下された。
理由は公費を不正な旅行に充てたというものだった。
今や日系企業も、中国共産党の中央規律検査委員会による調査の対象である。
習政権の汚職摘発の強化は日系企業にとって新たなリスクとなっている。
■日系企業を狙い撃ちしているのか?
こうした捜査について、「日系企業が狙い撃ちされるのか」と懸念する声もある。
だが、そのように受け止めるのは妥当ではない。
中国・上海で日系企業の法務を扱う法律事務所は、
「日系企業を叩こうとするならば、最初から日本人を捕まえているはず」
と日系企業狙い撃ち説を否定する。
★.主に捜査対象となっているのは、中外合弁企業(中国企業と外国企業の合弁企業)の中国人幹部である。
前出の法律事務所によれば、彼らは「これまで野放しになっていた」という。特に「公務員の顔を持ちながらビジネスマンの顔を持つような、
政界と財界の間を行き来している大手企業の人物が狙われている」(日本の大手銀行で中国経済を扱う専門家)という。
今まで、中国の国営企業の幹部を取り締まることはあっても、中外合弁企業に本格的にメスを入れることはほとんどなかった。
「中外合弁企業の中国人幹部は、業者から賄賂をもらっていたり、会社の金を横領したりすることが日常茶飯事だった。
習政権は『例外を作らない』ことが基本姿勢だとすると、今回の日系企業捜査の動きも反腐敗キャンペーンの一環だと見ることができる」(同)
■「やりたい放題」だった中国人幹部
中国の国営企業の幹部を務めるX氏は、こうした動きを好意的に受け止めている。
「彼らは今までやりたい放題だった。
たとえ告発があったとしても、権力でそれをもみ消してきた。
それを考えると、摘発自体は決して悪いことではない」
中国に進出する日本の大手企業では、かねてより社内外で中国人幹部に対する批判が上がっていた。
彼らは
「取引業者からリベートを受領」
「客先へリベートを供与」
「会社の金を横領して個人投資に回す。
それを貸し付けて利子を得る」
など、まさにやりたい放題だった。
筆者の身近でも「会社の金でマンション2戸を購入した」というケースがある。
日本人なら誰もが知る某有名企業の北京の中国子会社では、堂々と横領が行われていた。
会計士のY氏は眉を寄せてこう話す。
「中国人幹部は自分の息子に会社を作らせ、架空の発注書を書かせて、そこに会社の金を移転させるという横領を行っている。
報復を恐れてなのか誰もそれを阻止しようとしない。
決して小さくはない金額の横領が今まで野放しにされてきた」
しかも、こうした大手日系企業の中国人幹部は高給取りとして知られている。
山東省に駐在する日本人総経理は、
「中国人幹部の給料は数万元。
我々以上の給料をもらいながら、それに見合う働きをまったくしてくれない」
と不満を漏らす。彼らはこれまで会社を食い物にしてきたと言っても過言ではない。
今まで、横領の内部告発はもみ消されていたが、最近は規律委員会が積極的に内部告発を調べるようになった。
規律委員会が処分すれば、自動的に「幹部」の座から降ろされ、事実上の更迭になる。
“問題中国人”を追い出すための「告発」に出る日系企業も出てきている。
日系企業の中国人幹部による「やりたい放題」は、中国の国営企業と合弁を設立した日系大手に限った話ではない。
中国ではほとんどの日系企業において、
中国人幹部の「やりたい放題」が行われてきた。
江蘇省のある中小企業の工場では、夜ごと密かに中国人幹部による資材の持ち出しが行われていた。かつてここで働いていたという日本人は次のように語る。
「気づいたときには、別の場所にうちとまったく同じ工場ができていた」
持ち出した資材は、摘発を逃れるために普通は転売するものだ。
しかしあろうことか、その中国人幹部はそれらの資材で「同じ工場」を作ってしまったという。
「しかも、向こうの工場の方が発展して大規模になってしまった」(同)
と言うのだから始末に負えない。
「むしろ好機と捉えよ」とメッセージを送るのは、前出の法律事務所だ。
「反腐敗キャンペーンは日系企業に不利益をもたらすより、会社を食い物にしてきた中国人管理職を追い出す好機となる。
日系企業はむしろこれを歓迎すべきだ」
■不正行為には日系企業も加担
さて、こうした「やりたい放題の中国人幹部」ではあるが、日系企業が彼らを重宝してきたことも事実である。
その理由は「顔が効くから」に他ならない。
中国でビジネスをしようと思えば、「中国は法治ではなく人治」と言われるように、有力者に頼み込んで物事を解決してもらうのが王道であった。
通関を早めたい、補助金をもらいたい、税金の還付を受けたい、などさまざまな局面で地方政府にすがり、その見返りとして役人に金品を渡す。
役人からあからさまな要求を受けることなどはしょっちゅうだ。
対中ビジネスに詳しいコンサルタントは、
「不正は、中国でビジネスをする上での必要悪だ」
とコメントする。
現実的に、中国ではほとんどの日系企業が不正に関わってきている。
企業であれ個人あれ、不正と無縁ではいられないのが中国なのだ。
現地の日系企業は、中国のビジネス習慣とコンプライアンスの間で苦しい判断を迫られる。
だが実際には、行政手続きなどの制度化が遅れている中国でスピードある展開を望めば、「賄賂」という手段に頼らざるを得ない。
そこで日系企業は、地方政府の役人を動かすキーマンとして、「人脈を持つ中国人」を幹部に登用してきたのである。
その意味で、中国人幹部は日系企業にとって不可欠な存在であった。
その中国人幹部が今
「調査が来たらどう逃げるか。捕まったらどうするか」
と戦々恐々としている。
日系企業も青ざめている。
「捕まった社員が『日本の本社の了承のもとにやったことだ』と口を割り、共同責任を問われたら、どう対応したらいいのか」
と、ある日本人駐在員は不安げに語る。
反腐敗キャンペーンは方向性としては間違っていない。
だが、「贈収賄も必要悪」とされるのが中国、それなしでは済まされないのが中国である。
反腐敗キャンペーンはむしろ大きな混乱を招く気配
を漂わせている。
』
『
WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年02月04日(Wed) 岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4672?page=1
習近平の反汚職運動に怯える
北京のエリートたち
米ニューヨーク大学のジェローム・コーエン教授が、1月1日付フィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説において、習近平の反汚職運動は、単なる権力闘争にとどまるのか、方向性が分からず、北京のエリート、特に経済人の間で不安が高まっている、と分析しています。
すなわち、習近平による反汚職運動は、党の組織、大規模国営企業、中国の実業界のみならず、政府のあらゆる階層にいる党員たちの日常的慣行にも具体的な影響を与えている。
あらゆる人々が、長年にわたり中国の経済的・社会的発展の潤滑油となってきた、賄賂の授受に慎重になっている。
共産党は、現在と過去の政治局員を含む最高位の指導者も、反汚職運動の対象から免除されないと主張しているが、多くの者はそれに懐疑的である。
これまでに捕えられた主な「トラ」、周永康と薄熙来は、習近平の派閥の敵対者であった。
明らかに捜査対象の候補と思える、もっと高位の指導者が他にもいる。
習近平と王岐山は、さらに大胆にターゲットを選び、反汚職運動が都合の良い復讐劇に過ぎないとの疑惑を払拭できるであろうか。
問題は、追及対象の選択基準である。現指導部の支持者の中の「トラ」も標的にすれば、反汚職運動は公共の利益に基づいて行われていると国民に信じさせることが出来るかもしれないが、追及を進めれば、現在は安定している党指導部に危険な混乱を招くリスクを冒すことになる。
習は、このリスクにつき、少なくとも党内から暗黙の警告を受けている。
多くの北京のエリートが、不確実さ、怖れ、フラストレーションを感じているとしても不思議ではない。
現在の反汚職運動がどのような方向に向かっているのか、誰の身が安全なのか、何がなされ得るのか、誰にもわからない。
中国のエリート、特に新興経済人にとり、北京は、外国人が考えているよりも遥かに心配な場所である、
と指摘しています。
出典:Jerome Cohen,‘Xi’s crackdown on corruption has hit the obvious targets’(Financial Times, January 1, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/32b90fd8-8129-11e4-b956-00144feabdc0.html#axzz3NYiKZNLK
* * *
習近平の反汚職キャンペーンが、権力闘争の色合いをますます濃くしつつあることを指摘した論説です。
習近平の所属する「太子党」からは摘発者はなく、江沢民・胡錦濤の各グループからのみ摘発者が出ていることは、反汚職キャンペーンが政治闘争の度合いを強めつつある証拠である、と見るのは妥当なところでしょう。
薄熙来、徐才厚、周永康、令計画らの逮捕・訴追は、政治局員ないしそれに近いレベルの対立を意味していますが、これらの事例を以て今回のキャンペーンが終了するのか、あるいは、さらに拡大するのかについては、まだ判然としません。
前三者がどちらかと言えば、江沢民に近い党幹部であるとすれば、令計画は胡錦濤の側近として弁公庁主任という枢要なポストを長年務めた人物であり、令の失脚は、新たに「共産主義青年団」のグループへの攻勢を意味するものかもしれません。
その点では、令の訴追事件が、今後、特段の注意をもって見守るべき事項でしょう。
★.中国では、伝統的に科挙の制度の下で、権力と財力が結びつく
ことが普通でしたが、
★.一党独裁体制の下で、
このような古い中国の制度が復活ないし拡大し、
これを打破することが容易ではない状況
となっています。
その結果、反汚職というスローガンは、政治闘争や復讐劇の口実として利用されることが多くなっているのです。
「多くの北京のエリートたちが先行きの不透明さに対し、不確実さ、恐れ、フラストレーションを感じているに違いない」
という本論の指摘は、そのとおりであると思われます。
』
_