2015年1月17日土曜日

オイルマネーの恐ろしさ:石油の低価格はいつまで続くのか、サウジアラビアのさじ加減・気分次第

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● 過去4年で300万b/d以上増加したシェールオイル


 オイル価格の下落で様々な問題が出てくる。
 アメリカのシェールガス、カナダのオイルサンド、ブラジルの海底油田は採算割れを起こすだろう。
 そしてロシア、ベネズエラ、イランなどの産油国もダメージをうける。
 この元凶はオイルマネーにある。
 サウジアラビアは金庫にドルが貯まっている。
 よって、数年くらいオイル価格が『ゼロ』になっても痛くも痒くもない。
 と同時に、オイルの生産を止めても、これも痛くも痒くもないのである。
 オイルマネーはさほどに力をもっている。
 オイルの生産を止めるか、
 あるいは価格を『0』にするかは、
 サウジアラビアのさじ加減、気分次第である。

 石油はお金さえかければ、
 地下の奥底からほぼ無限に採掘できることがわかった。
 だがそれには資金がいる。
 採掘された石油は高価格になる。
 この高価格石油の採掘を止めるには低価格石油を市場にばらまけばいい。
 サウジが今やっているのはそれだろう。
 そして、高価格石油採掘施設が稼働を止め、再開不可能状態に追い込んでゆく。
 それを確認したら、急激にオイル生産量を絞り込む。
 さすれば、石油は一気に高騰する。
 1リッターのガソリンが300円、400円になるかもしれない。
 石油安を見込んでオープンした所関連は一気に叩き潰される。
 すべてはサウジアラビアの手の内にある。


レコードチャイナ 2015年01月16日17時48分 [ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
http://japanese.joins.com/article/421/195421.html?servcode=A00&sectcode=A00

低オイル価格、どれほど長続きするだろうか

  国際原油価格の急落は一瞬の旋風なのだろうか。
 この頃、経済政策担当者や企業経営者、投資家の誰もが抱いている疑問だ。
 一部の原油トレーダーは
 「目をぎゅっと閉じて1年さえ持ちこたえれば上がる」
として原油を買い占めている。
 だが歴史は別のシナリオを見せている。
 1985年11月に米国西部のテキサス産原油(WTI)の価格が滑り始めた。
 翌年4月までにWTI価格が69%(31.82→9.75ドル)も下落した。
 この頃のオイル価格の下落幅と類似している。
 WTI価格は昨年6月以後、58%余り落ちた。

  80年代中盤当時、専門家たちのほとんどが低オイル価格時代は長くは持たないとみていた。
 彼らの主な根拠は「原油の埋蔵量はまもなく枯渇する可能性がある」ということだった。
 だが80年代中盤以降、低オイル価格時代は90年まで約4年間続いた。
 原因は供給過剰だった。
 石油輸出国機構(OPEC)の主導国であるサウジアラビアが原油生産を大幅に増やした。
 またオイルショックが米国のアラスカ油田開発をあおった。
 最近、原油高時代が米国のシェールガスや原油開発を刺激したようにだ。
 米国エネルギー情報局(EIA)は13日に出した報告書で「今年と来年の間に米国の原油生産が増える展望」と明らかにした。
 今年一日の生産量は平均930万バレルに達し、来年には950万バレルに達するということだ。

  このため一度増えた原油供給は少々のことでは減りにくい。
 オイル価格の下落でも供給が弾力的に減る可能性はないという話だ。
 80年代の低オイル価格時代が約20年ぶりに再演される兆しがうかがえる。



ロイター 2015年 01月 17日 04:30 JST
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKBN0KP28D20150116

原油安の影響、北米で顕著か
=世界最大の油田サービス会社

[16日 ロイター] -
 世界最大の油田サービス会社、米シュルンベルジェのパール・キブスガード最高経営責任者(CEO)は16日、
 原油安によって北米は世界の他の地域よりも「著しく大規模な」影響を被る公算が大きい
との見通しを示した。

 キブスガードCEOは電話会議で、
 北米に比べ、海外市場では原油価格の下落に伴う価格設定や掘削活動への影響はさほど顕著ではない
と語った。

 シュルンベルジェは南米や中東を軸足に、売上高の約3分の2を北米以外で稼ぎ出していることから、CEOのコメントを受け、同社株価は最大5%上昇した。
 同CEOはまた、米国でのランドリグ(掘削施設)数が昨年10月以降減少していることを踏まえ、今四半期も掘削活動の減速に直面し、価格圧力にさらされるとの見通しを示した。

 バークレイズは、シュルンベルジェの2015年支出について、中東で14.5%増、北米で少なくとも14.1%減との試算を示している。

 シュルンベルジェが前日発表した2014年第4・四半期決算は増収減益で、調整後1株利益は市場予想を上回った。
 一方で原油価格下落が続いていることを受け、全従業員の約7%に当たる9000人を削減する方針を表明した。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年01月22日(Thu)  永田安彦 (日本エネルギー経済研究所)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4649

更なる原油安をも容認する
サウジアラビアの真意

 「1バレル20ドルになってもOPECは生産枠を維持する」(サウジアラビアのヌアイミ石油相)
こうした同国の姿勢に他の産油国は悲鳴を上げる。
 サウジアラビアの本音はどこにあるのか—。

 原油価格が急落し、いわゆる逆オイルショックといわれる現象が起きている。
 この急落の要因となったのが、
 石油輸出国機構(OPEC)による価格調整機能の放棄
であり、OPECを主導するサウジアラビアの原油市場に対する強い意思、すなわち、価格を犠牲にしても、市場シェアを維持するという方針であった。

■サウジが意識する80年代の苦い記憶

 2014年12月22日には、サウジアラビアのヌアイミ石油相は油価がバレル当たり20ドルになってもOPECは生産枠を維持すると述べている。
 地政学リスクさえなければ、120ドルまでいかずとも、40ドルを下回る可能性は考えられる状況にある。

 ところでこうしたサウジアラビアの強い意思の背景には、「1980年代の苦い経験があった」(英王立国際問題研究所ポール・スチーブンス教授)。
 80年代前半は油価が高く、北海など非OPEC諸国の生産が伸びた時期で、原油市場は供給余剰に陥っていた。
 原油の高価格維持のため、サウジは自ら大幅な減産を行った。

 サウジの原油生産量は80年の1027万/日(b/d)から85年には360万b/dに低下した。
 結果として非OPECは減産の恩恵を受けたが、サウジは市場シェアを失うかたちとなった。
 OPECの生産シェアも大幅に減少し、80年の41.3%から85年には27.6%にまで低下した。
 サウジアラビアが減産を見送り、シェア維持の方針を採ったのはこうした過去の歴史への反省に基づいている。

 従前のOPECであったならば、原油価格急落に直面して、昨年11月の定例総会前に緊急総会を開催して、減産を選択したはずであった。
 確かに、ベネズエラはそれを主張したが、サウジを始めとする主要国の賛同を得ることはなかった。

 OPECが油価の急落を黙認した理由は何か、
 それを主導したサウジアラビアの真意はどこにあるのか、
 様々な憶測が流れた。
 それは、
★.米国のシェールオイルを標的にしたという説、
★.また、アラビア湾を挟んで対峙するイランに圧力を与えるという説、
★.そして、世界最大の原油輸出国であるロシアを標的にしたという説
などであった。

★.まず、シェールオイルは一般的にコストが50~80ドル/バレルといわれており、油価が50ドルにまで下落すれば、シェールオイルの生産は停止するといわれる。
 シェールオイルは過去4年間に300万b/d以上増加しており、急激な増加がOPECにプレッシャーをもたらしていた。
 従って、年々増え続けるシェールオイルを敵視する考えが生まれてもおかしくはない状況にあった。

 また、原油輸出量を伸ばしている、世界最大の原油輸出国ロシアを苦々しく思ったかもしれない。
 実際、プーチン大統領は「原油価格は常に政治的な要素が関連している」と米国の関与を匂わすような発言をしている。
 ただし、OPECのエル・バドリ事務局長は12月10日、
 「原油生産枠を維持したのは、米国やロシアに圧力をかける意図はなかった」
と述べている。

 OPECは価格安定化を目指して、これまでは世界の石油需給を彼らの生産の増減を通じて調節するスウィングプロデューサーとしての役割を果たしてきた。
 ところが、昨年11月27日開催の総会では、大幅な原油供給余剰のなかで減産を見送り、いわば調整役を放棄したかたちとなった。
 多くのメディアがOPECの役割の終焉といった指摘を行った。

 国別の生産枠の割当は現在決められておらず、仮に新たな生産枠を決定しても守られない可能性もあった。
 OPECが市場調節機能を放棄した結果、市場の変動性も高まってきており、今後は価格変動性が高い状態が続くとの見方もできる。

 OPEC総会後、市場では現状の余剰生産が続くとみて、原油は大きく売られ、高コストのシェールオイル、ロシアやイランを狙い撃ちしたかたちとなった。
 一部報道では、サウジが米国と組んでロシアに打撃を与える選択を行ったという陰謀説も出てきた。

★.確かに、最も大きい影響を受けたのはロシアで、ルーブルは対ドル相場が2014年9月以降3カ月で36%も下落した。
 経済制裁と原油安のダブルパンチで、ロシアは財政を含む内政面で大きな課題を突き付けられている。
★.イランについては、財政均衡油価が120ドル/バレルを超えているといわれ、油価下落により財政収支の大幅な赤字に陥る可能性がある。

■財政均衡油価はサウジ89ドル、ベネズエラ162ドル

 原油価格が低水準で推移した場合、OPECを始めとする産油国の財政への影響が懸念される。
 サウジアラビアは対外資産が約7500億ドルに及ぶとされ、国家債務も非常に低水準にあり、財政収支の赤字が当分の間、続いたとしても、十分に耐え得る。
 財政均衡油価は89ドルといわれ、イランなど他の産油国よりは低い。
★.ちなみに生産コストは4~5ドルである。

 ただし、それが長期に及んだ場合は、財政の逼迫は避けられないであろう。
 他の産油国、特にナイジェリアやベネズエラは財政均衡油価がそれぞれ126ドル、162ドルで既に相当厳しい状況にある。
 産油国の多くは、石油製品、ガス、電力、水道などに多額の補助金を支払っているが、こうした補助金にも手を付けざるを得なくなるであろう。

 アラブの春以降、産油国は自国民の公務員等への給与を大幅に引き上げるなどバラマキを続けてきたが、こうした支出を含め、政府歳出全般の見直しを必要とするであろう。
 クウェートでは14年6月、政府が軽油補助金の廃止を宣言した。
 また、アブダビ首長国では同年11月、電力と水道の料金を15年より引き上げることを発表した。

 原油価格の下落は世界経済の景気を下支えする効果が期待できる。
 デフレ基調の先進国経済にとっては原油安がデフレを増長するとの懸念もあるが、消費国にとっては物流、燃料のコストを下げ、資源輸入国は貿易収支の改善につながる。

 一方マイナス面としては、今後の資源開発への投資が停滞することなど、将来の供給への懸念があげられる。
 米石油大手が15年の開発投資額を引き下げると発表するなど、原油安は将来資源の供給を縮小し、需給バランスの不均衡化をもたらす。
 石油需要は、新興国を中心に世界の人口増、経済発展により、将来増えると予想されており、供給が滞れば、再び資源価格は上昇することになる。

 世界経済において好調をキープする米国においては、近年のシェール革命により、原油生産量を急激に増やし、自給率を高め、エネルギー・インデペンデンスを実現する途上にあった。
 原油安は消費国としての米国にとってはメリットがある一方、シェールオイル生産業者にとっては当初は投資の縮小、後には操業の停止などのリスクをもたらす。

 さらに、ここにきて原油安は金融市場に大きな影響を及ぼしている。
 ロシア等の資源国の通貨が急落し、エネルギー関連の株や社債の価格が下落し、中東湾岸諸国の株価も大きく値を下げた。
 金融市場における摩擦が世界経済に及ぼす影響も注視する必要がある。

■OPECでなく実需が決める原油価格

 原油価格は現状では5年ぶりの低水準にある。
 OPECが現状の生産水準を維持していくならば、15年の上半期において、100万b/dを超える供給余剰に陥る。
 価格が下落するなかで、シェールオイル生産業者などの高コストの供給者は生産を停止するところも出てくるであろう。
 そうしたなかで、早ければ15年下半期にも石油需給が均衡化に向かう可能性もある。
 ただし、原油価格が反転するには、原油安で新興国を始めとする石油需要が上向くという強いシグナルを必要とする。

 OPECが油価の調整を市場原理に委ねる判断をしたことで、今後原油価格は変動性を高めていく可能性が高い。
 原油供給途絶につながる地政学リスクの高まりといった状況にすぐに原油市場が反応する可能性がある。
 原油価格は機能不全に陥ったOPECでなく、実需が決める1年になることが予想される。

 次回の定例総会は15年6月5日に予定されているが、OPECの盟主であるサウジが20ドルに下落してもOPECは減産しないと明言しており、油価が低水準で推移しても、6月以前に緊急総会が開催される可能性は低いだろう。

 ただし、このOPECのシェア維持の方針にはリスクが伴う。
 OPECと非OPECの戦いは85年から99年まで続いたとされ、開始時と最後には原油価格は10ドル台にまで低下した。
 今回のOPECと非OPECの新たな戦いがどのような結末を迎えるのか、原油価格の安定は世界経済とも密接に結びついており、特にサウジアラビアを始めとする今後の市場動向に注目が集まる。

◆Wedge2015年2月号より



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年01月21日(Wed)  倉都康行 (RPテック代表取締役、国際金融評論家)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4645

デフレに怯える世界経済
原油安にリスクあり

 原油価格の下落はエネルギーコスト低下に直結するため、経済のプラス材料であるが、喜んでばかりもいられない。
 世界は一歩間違えればデフレに陥りかねない状況にあり、原油安はそのトリガーになる可能性をもつ─。

 今後の世界経済リスク要因として、米国の利上げ、中国不動産バブルの瓦解、逆オイルショック、欧州危機の再燃、ロシア危機そして地政学リスクなどが挙げられる。
 中でも最大の攪乱要素になりそうなのが、急落した原油価格である。

 原油相場は2014年6月以降価格が40%以上も下落する大波乱となり、ロシアのルーブル暴落を誘うなど猛威を振るっている。
 その背景にあるのは石油需給バランスの崩れである。

 シェール開発は、設備投資を牽引し周辺産業での雇用機会を生む一方で、石油供給量を押し上げることになった。
 だが、中国経済の成長鈍化や日欧の景気低迷などを背景に、石油需要の伸びは頭打ちとなっている。

 原油価格が急低下すれば産油国が減産して市場価格が均衡に向かう、というのがこれまでの定番シナリオであったが、今回OPECの盟主サウジアラビアは減産に応じなかった。
 それが、価格下落を加速させたのである。

■メリットばかりでない原油安

 サウジが減産に合意しなかったのは、諸説あるが、いずれにしてもサウジが原油シェアの維持を狙ったことは確実だ。
 原油は唯一の外交力であり、その市場支配力が減衰することは断じて許されないのである。
 このままでは歳入不足で財政危機に見舞われる産油国が出るかもしれず、サウジも190ドル以下では財政赤字になると言われているが、豊富な保有外貨を盾に長期戦に耐える力が同国にはある。
 原油価格が急反転することは想定し難い。

 原油価格の下落は、エネルギー・コストの低下という世界経済へのプラス材料だが、
 今回は3つのマイナス材料に留意せねばならない。

★.1つ目は
 世界に広がるディスインフレ傾向をさらに加速させてデフレ懸念を強めかねないことだ。
 物価下落に怯えて大胆な緩和政策を続けているのは日本だけではない。
 ユーロ圏ではデフレが目前に迫り、経済が好調な米国も2%という物価目標がなかなか達成できない。
 またディスインフレの傾向が強まってきた中国は、過剰設備や過剰債務といった危うい経済構造にあるにもかかわらず、デフレを恐れて過剰な金融緩和へと舵を切り始めている。

★.2つ目は
 産油国の財政不安や米国新興エネルギー企業の財務不安が資本市場を動揺させる可能性があることだ。
 既にロシアは市場の厳しい洗礼を受けているが、ベネズエラやイラン、イラクなども財政状況は苦しい。
 また事業採算ポイントが高い米国新興企業も、債務返済の負担が重くなっている。

★.3つ目は
 石油開発企業が設備投資計画を凍結し、経済成長にブレーキが掛かるおそれのあることだ。
 ゴールドマン・サックスは、世界全体で約1兆ドルの投資が見送りになる、との推計を公表している。
 原油安は再生エネルギー企業の経営をも脅かし、同事業の投資が大幅に縮小する可能性もある。

 こうした状況が、低迷する世界経済の中で「独り勝ち」と言える米国への逆風となれば、日本にも影響が無いとは言えなくなる。
 昨年の米国経済は、第1四半期こそ悪天候の影響で成長率は前期比マイナス2.1%と不振であったが、4~6月期は同4.6%と急回復を見せ、7~9月期は5.0%と更に拡大している。

 14年通年の成長率は2%を上回った可能性もあり、市場では15年は2.5~3.0%といった予想がコンセンサスとなっている。
 従来の景気回復ペースと比較すれば控えめな成長率ではあるが、他の先進国や新興国と比較すれば、かなり安定的で高い経済成長と言える。
 雇用も着実に改善している。

★.米国経済の強みは、消費・雇用・生産・住宅・金融といった幅広い範囲で景気拡大が観測されていることである。
 そこには、08年の金融危機後に採用されたゼロ金利政策が大きく貢献している。
 米国の場合、ジャンク債やレバレッジド・ローンといった資本市場が発達していることから、ゼロ金利政策による低コスト資金が経済社会に行き渡り易くなっている。
 それに加えて、量的緩和という大胆な金融政策が株価や住宅価格を押し上げて消費意欲を刺激するという、資産効果も生まれた。
 原油価格の急落も、家計への思いがけないプレゼントになった。

 今年も好況が続きそうであり、FRBも利上げ姿勢を崩していない。
 だが、上述した3つのマイナス材料が株式やジャンク債など資産価格の下落を含む資本市場の崩れを呼び込めば、成長ペースが失速する波乱も有り得る。

 また、6~7月あたりにFRBが利上げを行うとの市場予想に反して利上げが大幅にずれ込むとの思惑が強まれば、ドル高に傾いている相場観が一気に転換し「リスクオフ」の嵐の中でドル円が一時的にせよ急速に円高方面へと切り返されるシナリオも無いとは言えない。

 それは、「円安期待」に安住する日本経済や株式市場にとってかなりのショックを与えるだろう。
 反対に、原油市場が早期に落ち着きを取り戻し米国の利上げが前倒しされて市場が動揺する可能性も僅かながら残っている。
 不確定要素は、昨年よりも多い。

■日本経済は「回復」するが・・・・・・

 日本経済に目を転じてみると14年は個人消費の低迷と設備投資の不振、そして円安でも増えなかった輸出という諸点で、内外から失望の声が漏れた年となった。
 金融緩和という一本足打法は、円安や株高といったヒットは打てても、日本経済の再生という大量得点を生む打球を放てるものでないことも露呈した。

 だが、今年の経済環境は政府の舵取りが多少拙くても自律的な改善が見込めるように思われる。
 昨春の消費増税の影響が和らぎ、増税が先送りされたことで個人消費が上向く可能性が高いからだ。
 設備投資も大手製造業を中心に徐々に回復基調を辿るだろう。
 円安効果で海外からの旅行客が増えることは確実であり、輸出に対する円安効果も昨年以上に拡大する可能性はある。

 一方で、実質賃金が下落する中で円安に伴う輸入コスト増が家計を苦しめ続け、内需型サービス業の収益を圧迫して円安倒産が増加するという、ネガティブな状況も継続することになろう。
 つまり、マクロの経済状況は改善するが、ミクロな世界ではその置かれた状況によって景況感が大きく異なる年になりそうだ。
 個々の立場で見る好不調の「経済的格差拡大」は、昨年以上に顕著になるだろう。

 その歪な経済構造の形成に一役買っているのが、日銀による「異次元の金融緩和政策」の継続である。
 13年4月に導入された巨額の国債買い入れ方針に続き、昨年10月末には第二弾が放たれて、ドル円は12月に入って一気に120円台を突破した。

 だが世界的なディスインフレ傾向の中で、日銀の物価目標の達成時期は遠ざかりつつあり、その出口も全く視野に入ってこない。
 安倍政権が掲げる「デフレ・マインド脱却」が達成されるかどうかも、かなり疑わしい。
 増税見送りという梯子外しに遭った黒田総裁は追加緩和に頑強に抵抗するとの見方もあるが、インフレ率目標達成という自身の面子への呪縛もあり、本格的な株式購入などを含む追加緩和を余儀なくされる可能性は排除できない。

■1ドル130円台も

 安倍政権の経済政策は、円安誘導と言い換えても良い。
 今年のドル円も何度かの乱高下を伴いつつも、米国の利上げを横目で見ながら130円台を窺う可能性が高い。
 「円安・株高」を継続させることが経済政策の軸となるだろう。
 こうした政策は、競争力強化や生産性向上といった根源的な課題への取り組みを遅延させるリスクを胚胎している。
 従って中長期的には望ましい方向性とは言い難いが、安倍首相と黒田総裁の方針は変わりそうにない。

 今年は1%前後の実質成長率は維持するとしても、輸出企業の優勢と内需型企業の劣勢、株式を保有する富裕層の資産増と一般家計の生活コスト増、不動産投資に沸く都心と疲弊する地方といった歪なコントラストは、一層鮮明になるだろう。

 このメイン・シナリオを揺さぶるのが海外要因である。
 グローバリゼーションの下、日本経済は海外の影響を受けることが増えた。
 海外のリスク・ファクターを入念にチェックすることは、企業にも個人にも不可欠となった。

 とにかく日本に必要なのは規制緩和である。
 ほんのわずかの間の景気回復期に、この問題に取り組まなければ、真の成長は見込めない。

 今年の世界経済像として、一歩間違えればデフレ局面に陥りかねない低空飛行の実体経済を、急変リスクを抱えた資本市場が支える、という極めて脆弱な姿が浮かび上がってくる。
 不安要素は中国やユーロ圏にもある。
 予測不能の地政学リスクという厄介な材料も散在する。
 一部の国のデフォルト懸念を通じて市場が債務問題に敏感になり、債務不安が増税先送りの日本にも押し寄せるシナリオ、即ち国債金利の急上昇も絶対にないとは言えない。

 現代経済は、米国の住宅や自動車などに見られるように資本市場が実体経済における需要を膨張させたり縮小させたりする傾向が強まっている。
 日本経済は、そんな資本システムの中に組み込まれた一部の系なのだ。
 内外の市場動向は、コンセンサスとなっている経済見通しを大きく狂わせる可能性を秘めていることを、今年もあらためて肝に銘じておくことが必要だろう。

◆Wedge2015年2月号より



レコードチャイナ 配信日時:2015年1月27日 5時49分
http://www.recordchina.co.jp/a101331.html

原油価格下落、今後1年程度続きバレル20~30ドルへの大幅ダウンも
=中国は急速に高齢化が進む―国際協力銀行総裁

 2015年1月26日、国際経済に詳しい渡辺博史国際協力銀行総裁(財務省元財務官)は日本記者クラブで記者会見し、原油価格が1バレル当たり40ドル台に下落していることについて、
 「下落傾向は今後1年は続く」
と予測した上で、
 「1バレル当たり20~30ドルに下落する可能性もある」
と語った。
 また中国経済について
 「日本と同様高齢化が速いスピードで進行する」
との見通しを明らかにした。
 発言要旨は次の通り。

 原油価格の下落傾向は、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)など湾岸の主要生産国が、新興原油開発をけん制する政治的な思惑もあって、減産しないため今後1年程度は続く。
 サウジは1バレル当たり13ドルになってもコスト割れにならない
といわれ、石油関係者の間では20~30ドルに下落するとの予測さえある。

 原油安が進むと、エネルギー関連企業の業績が落ち込んだり、開発プロジェクトの採算が悪化したりする可能性がある。
 石油産出国のロシア、インドネシアなどへの影響は甚大である一方、インドなど石油輸入国は恩恵を享受している。
 ただ
 ロシアは「基金が4年分」あるほか「外貨準備も3年分」ぐらい保有しているため貿易収支が単年度赤字になっても持ちこたえられる。
 日本や米国などでは、エネルギー石油開発会社やパイプライン需要縮小に伴い鉄鋼メーカーなどが影響を受ける。

 世界経済は、欧州でギリシャ問題が顕在化し、「イスラム国」やシリア、イランなどで「アラブの嵐」が吹き荒れている。
 米国経済は比較的順調だが、所得格差が拡大し、中間層が極端に縮小していることが課題となる。
 中国も日本と同様、急速に高齢化が進行。
 5年後には人口13億人のうち6億人を働く世代が支えなければならない時代が到来する。



ニューズウイーク 2015年2月16日(月)18時11分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/02/post-3553_1.php

原油価格決定のカギはあの国が握る
Can They Prop Them Back Up?

 生産調整が簡単なシェールオイルの力で、アメリカがサウジに代わる新たなプレーヤーに

 石油会社と産油国は先週、かすかな希望の光を目にした。
 1月に約6年ぶりの安値を付けた原油価格は、先週に入って1バレル=50ドル台まで回復。
 国際的な指標となるブレント原油価格は、1月中旬の安値から20%以上も値を戻した。
 確かに、1バレルの価格はいまだに昨年半ばの半値水準に沈んでいる。
 それでも原油価格は底を打ったと判断できなくもない。

 もしそうなら、エネルギー分野の重要な役割は今やアメリカのものになったと言えそうだ。
 世界の原油生産量は、相変わらず需要を上回っているとみられる。
 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘するように、
 アメリカの石油備蓄量はこの84年間で最大に達し、現在も増え続けている
ようだ。
 にもかかわらず、市場には楽観ムードが漂う。
 原油安を受けて石油メジャーは投資の削減を発表しており、結果として生産量が減少するはずだからだ。

 さらに重要なのは、アメリカで油田掘削装置の稼働数が急減している点かもしれない。
 米資源開発サービス企業ベーカー・ヒューズによれば、昨年10月以降、掘削機稼働数は約25%減少している。
 言い換えれば、アメリカの原油生産者は超安値への対応として、掘削の規模を縮小している
とみられる。
 原油業界では、前代未聞の出来事だ。
 油田開発に巨額を投じた企業は大抵、投資資金を回収するために何年も採油を続ける。
 だから供給過剰に陥っても、なかなか生産量を減らせない。

■サウジが犯した判断ミス

 だが昨今のアメリカのエネルギーブームの中心は、シェールオイルだ。
 シェール用油井は短期間で産出量が低減するため、産出レベルを維持するには、新たな油井を掘り続けなければならない。
 原油価格が急落したら掘削をすぐに停止すれば、市場に出回る量は減る。
 「アメリカのシェール産業は
 生産の開始と休止を、ほぼ即座に切り替えられる。
 原油市場にとって画期的な事態だ」
と、ハーバード大学ケネディ行政大学院のエネルギー専門家、レオナルド・マウジェリは指摘している。

 専門家の間には、アメリカが新たな「スイング・プロデューサー」になったとの声もある。
 需給の変化に応じて生産を増減して市場の動向を決め、原油価格の急騰や急落を阻止する重要な役割で、従来はサウジアラビアがこれを担っていた。
 とはいえ、サウジアラビアは常にその役目を果たすわけではない。
 昨年、アメリカのシェールオイル生産増大に伴って原油価格が下落していたときも、生産を減らさなかった。
 下落が止まらなくなったのはそれからだ。

 サウジアラビアとしては、原油安で北極海の油田開発などへの投資が鈍れば、将来的に価格は上がると判断したのだろう。
 自国の生産減は、アメリカの生産増を意味すると考えた上での行動だった可能性もある。
 だが、アメリカの掘削規模は逆に縮小している。
 今や調整役を担っているのはアメリカだ。

 あるいは「それに近い役目」と言うべきか。
 サウジアラビアと違い、アメリカに国営石油会社は存在しない。
 国内にひしめく小規模採掘業者は市場の動きに反応するだけで、下落を見越して先手を打ったりはしない。

 掘削装置の稼働数は急減していても、実際に産出量が減るまでには時間がかかる。
 その一方で石油備蓄量は増え続け、おかげで原油価格がさらに下がる恐れがある。

 果たして希望の光は消えるのか、残るのか......。

© 2015, Slate
ジョーダン・ワイスマン
[2015年2月17日号掲載]







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